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“連続漫画“に挑戦した大友克洋〜全集第4巻「さよならにっぽん」

大友克洋全集第3巻「ハイウェイスター」で、その才能の開花を示した大友克洋。それに続く1977年半ばから、78年にかけて発表した作品で編んだ第4巻「さよならにっぽん」には、様々なテーマで作品を生み出そうとする大友がいる。

そのチャレンジの一つが、表題作「さよならにっぽん」である。あとがきには、アクションの編集長から、<カンフーとか空手をネタに描いて欲しい。5話くらいの長さでどうか>と依頼されたとある。その背景として、<もしかしたら私を連載作家にしようとしていたのかもしれません>と述懐されている。

大友は「傷だらけの天使」シリーズを発表しているが、同一の空気感の中で書かれた連作短編であり、ストーリーとしては続いていたわけではない。「さよならにっぽん」は初めての”連載”、“連続漫画“である。

大友はこの作品について、<絵が乱れている>、<用意していた筋立てとは別方向>と、心の準備が出来ないまま描いたとしている。<絵が乱れている>とは言え、それは大友スタンダードでの話で、扉絵だけ並べても、十分なアート作品になっている。

NYが舞台の話だが、乾いた面白さが私は好きである。なんとなく、吉田秋生の「BANANA FISH」(1985年連載開始)に通じるものも感じる。大友は本作の舞台をNYにしたことについて、映画<「フレンチ・コネクション」の影響ですね>と書いている。吉田秋生もアメリカン・ニュー・シネマから影響を受けており、通じるところがある。

大友としても思うように描ききれなかった感があるようで、確かに、最後のエピソードは、「ん?」というところはある。NYで奮闘する日本人空手家という設定は魅力的なので、それなら、是非に新版「さよならにっぽん」を描いてくれないかとも思う。かなわぬ夢だろうが。

好きなのは「天網恢恢疎にして漏らさず」。SFとも言える作品だが、落語「死神」米津玄師もインスパイアされたみたい)の影が見える。最も、登場するのは天使ーただし大友得意の悪ガキ風。

最後の一編は、マイルス・デイビスの曲名をタイトルにした「SO WHAT」。宮城弁のセリフで彩られる、青春の一場面をスケッチしたような作品だが、絵の描き込みが凄い。バンド演奏のシーンがいくつか登場するが、緻密すぎて、これが描きたくて作ったマンガではないかとも思った。それ以外にも印象的なコマのオンパレードで、大友克洋アートを堪能できる。

そんな風に思っていたら、あとがきには<この頃から、ちゃんと作品に向き合って絵を描くようになったと思います>と書かれていた。

8月7日毎日新聞の朝刊、いしかわじゅんがその連載「漫画を読んだ」で宮谷一彦について書いている。その記事の冒頭、<日本の漫画は、3度大きく変わったと思う>とし、<3人の大きな変革者>として、手塚治虫、宮谷一彦、そして大友克洋を挙げている。

この先、大友はどのような作品を生み出していくのだろう。“大友以降“、大友による変革がいよいよ本格的に動き出している


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