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離陸した大友克洋〜全集第3巻「ハイウェイスター」

大友克洋というマンガ家を広く知らしめたのは、マンガ雑誌「ぱふ」の1979年7月号”特集大友克洋の世界”と、同年3月に発刊された奇想天外社からの「ショートピース」だった。

後者は初めての単行本、1976年の作品「犯す」の現代の能面のような扉絵をカバーに使用した、衝撃的な装丁の一冊だった。これによって大友克洋の作品を初めてまとめて読めることとなった。

当時、大友がホームグラウンドとしていたのは、双葉社の「漫画アクション」。その双葉社が、上記の2冊を受けて、同年10月にようやく単行本を発行した。それが、アクションコミックス「大友克洋傑作集ーハイウェイスター」である。

これらの単行本は、選集的な性格であったが、今回の全集第3巻「ハイウェイスター」は時系列に編集されており、単行本としてはこの2冊に初出の作品が中心、発表時は1976年4月から1977年7月の作品群である。

全集の前作「BOOGIE WOOGIE WALTZ」がリアルを追求したスタイルの確立を目指したフェーズとすると、本作はその卓越した画力をベースにし、マンガ家として本格的に離陸した時代に見える。

描く題材の幅が広がり、読者を意識したストーリー展開が見える。本人もあとがきでこう書いている。全集2巻の後半あたりから、<物語をどうやって見せていくか意識するようになりました>、<だんだん読み物として面白いものを描きたくなっていくんですね>。

前後編で書かれた「アメリンゴ」は高校球児の話。ただし、それはありきたりの青春ものとは一線を隠す。

私の好きな作品の一つは「酒井さんのゆきえちゃん」。大友は、<個人的に酒井ゆきえおねさん(注:「ママとあそぼう!ピンポンパン」3代目おねえさん)が好きだったので>描いたと語る。ゆきえちゃん始めとする、自由奔放な子供たちが登場するが、後の「童夢」「AKIRA 」に通じるところがあるようにも感じる。また、TVに映る「ピンポンパン」が描かれているが、通常のコマとは全く違うタッチで描かれていて、大友の思い入れが感じられる。

表題作の「ハイウェイスター」は見かけボロの車を駆って賭けレースで稼ぐ男の話。大友は、<時間がなかったので描き飛ばしてます。正直手抜きです>と語っている。リアルを追求した大友が、”手抜き”で軽くこなしたところが、読み手からするかえって心地良い。車のボディに書かれた文字”FIREBALL” 、同乗した女性から名前を聞かれた主人公は、<「スピードキング」>。安直なディープ・パープルづくしも楽しい。

未来につながると言えば、四人の若者が主人公の「宇宙パトロール・シゲマ」。青春の一コマがデフォルメされているのだが、ちょっと将来描くところになるSF世界の臭いがする。

同じ四人が登場する、「’ROUND ABOUT MIDNIGHT」は、マイルス・デイビスのアルバム・カバーをアレンジした扉絵に続いて、徹夜麻雀の様子が描かれる。

路上生活者を題材にした、「WHISKY-GO-GO」も記憶に残っていた、好きな一編である。大友作品は、青年のリアルを軸にしながら、老人と子供へと広がったようにも見えるが、この作品は”老人”が魅力的である。

このように、この時代の大友克洋はその才能を本格的に開花させ、マンガ家としての足場を固めていく。これらを踏み台に、彼は次のステージへと登ろうとしている



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