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“奇跡の寄席“ができて17周年〜「天満天神繁昌亭」と回想(その2)

(承前)

天満天神繁昌亭、平日13時半開演の昼席、平日なので客の入りをちょっと心配したが、1・2階250席の座席、1階はそこそこの入りである。

開口一番は、桂文路朗(ぶんじろう)、六代目桂文枝の弟子で、演目は師匠が作った新作「お忘れ物承り所」。駅の忘れ物預かり所を訪ねる、様々な人の様子を描く、間違いなく受けるネタである。

客席を大いに温めた後、笑福亭生寿が続いた。各人持ち時間15分程度で、トントンと進む。 マクラでNHK新人落語大賞のエピソードを話す。令和3年度、大賞に挑戦した生寿は審査員5人が10点ずつ持つ審査で48点、例年なら優勝のはず。ところが、桂二葉が満点の50点で優勝をさらった。多少の悔しさを訴え、48点を取ったネタを演じますと、「近日息子」。NHKでは二葉パワーに負けたが、良い味出していた。

続く、桂きん太郎、きん枝の弟子だが、演じたのは師匠の兄弟子桂文枝の新作「鯛」。東京でも柳家はん治らが演じている、“古典化“している演目である。こうして、当代文枝が天満天神繁昌亭の開設に尽力し、一方で大量の新作落語を作り、その中から“古典化“しつつある。彼の功績は、将来大いに評価されるように思う。

おせつときょうたの漫才の後は、笑福亭仁昇。病院関連の漫談が続き、このまま終わるかと思ったら、病気つながりで「目薬」をさらっと演じた。

前半最後は、米朝一門の桂米平。若いものがよって、互いに好きなもの嫌いなもの、怖いものを聞き合う。「饅頭こわい」の導入部だが、上方版の場合、“おやっさん“が登場し、 “ゾッとした“体験談を話し出す。このくだりが終わった場面で米平は切って中入り。上方落語らしいネタを披露した。

後半最初は、坂本頼光、活動写真弁士である。東京の寄席にしばしば顔を出しているが、繁昌亭まで出演していることに驚く。無声映画を上演し、これに語りをつけ、昔の“活弁“を再現している。この日は、基本ネタの一つという、フランス映画「赤ずきん」。お馴染みの童話だが、赤ずきんは結構な歳の女性、オオカミは“犬“が演じるという、突っ込みどころ満載の映画である。

桂一蝶、かつて一世を風靡した任侠映画。主演の高倉健らに憧れる男の話、「昭和任侠伝」である。私は一蝶の師匠、先代(二代目)桂春蝶の新作かと思っていたら、調べてみると桂音也という落語家の作品で、桂春蝶が得意にしていたネタらしい。

笑福亭右喬、「時うどん」。「時そば」の上方版だが、こうした噺ほど難しい。 右喬は大阪市出身らしいが、そのイントネーションがどうにも気になった。

トリで登場したのは、桂千朝、桂米朝の弟子、ベテランである。 入ったのは、「佐々木裁き」。大阪の西町奉行所に赴任してきた佐々木信濃守。当時、奉行所周辺では賄賂が横行、信濃守は浄化について思案しながら、町の様子を見回っていた。当時、“住友の浜“と言われた辺りである。

心斎橋から東西に走る長堀通、かつては堀であり、心斎橋を始め橋がかけられていた。その東側、今の松屋町の手前に安綿橋がかかり、南側には住友の屋敷があったので、“住友の浜“と呼ばれた。「佐々木裁き」は、東京では「佐々木政談」として演じられるが、私の地元が舞台となる上方版が好きである。

“住友の浜“では、悪ガキどもが遊んでいる。信濃守が見物していると、“お奉行ごっこ“をやっている。しかも、一人の子供が扮するのは佐々木信守である。さて、どうなることやら。。。。

桂千朝は、この話を丁寧に演じ、知恵の回る子供、それに対する信濃守のキャラクターをくっきりと浮かび上がらせた。この子供は、知恵が勝ちすぎてはいかず、子供らしい振る舞いの中に、利発さを感じさせなければ、単に生意気な存在になる。信濃守は、威厳を失わず、それでいて子供の言動から、大阪の街の腐敗を感じ取る、視界の広さ・懐の深さがなければならない。千朝が演じる二人の主人公は素晴らしかった。

客席は、平均年齢が相当に高く(61歳の私は若い方である)、眠りこける方も散見された。やりづらい空気だったかもしれないが、上方落語を楽しんでもらおうと、各演者が高座に挑んでいた。

終演後は、桂千朝師匠始め、出演者が観客を見送る。また来ようと思わせる、“奇跡の寄席“であった


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