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マリア・ジョアン・ピリス復帰!!〜2022年11月29日サントリー・ホール

ポルトガル出身の女性ピアニスト、マリア・ジョアン・ピリス。2017年、引退報道が流れ、翌2019年に“最後の“日本公演が実施され、私も足を運んだ。彼女が75歳になる年だった。

モーツアルトのピアノ・ソナタのCDから入り、ロンドンでは何度かコンサートで聴いた。そんな彼女の引退は残念だったが、今秋来日のニュースが入ってきた。

この日のプログラムに書かれていた引退の真相は、<「マネージャーと仕事に対する意見が合わず、自分の意思を貫き、音楽に身を捧げる立場として、これ以上嘘はつきたくないと思い、引退を決意せざるを得なかった」>と書かれている。そして、現在は<「自分が本当に演奏したい作品、場所、共演者などを選んで」演奏をしているという>。

そして、この復活公演で選んだ作品は、シューベルトとドビュッシーだった。この秋は、シューベルトに縁がある。

1曲目は、シューベルトのピアノ・ソナタ第13番イ長調D664。1819年、シューベルト22歳の時の作品である。コンサートで何度か聴いている曲だが、とてもチャーミングで好きなソナタである。若きシューベルトの才気がほと走り出ているような音楽で、ピリスの再起にピッタリである。

続いて弾いたのが、ドビュッシーの有名な“ベルガマスク組曲“。ピリスのドビュッシー、初めて聴くと思う。プログラムには、<ピリス自身も「フランス音楽はあまり得意としていない」>と語り、あまり取り上げてこなかった。<しかし、いまは最も演奏してみたい作曲家のひとりだという>。

キラキラと輝くような音色を楽しんでいると、もっとピリスのドビュッシーを聴きたくなる。モーツアルト、ベートーベン、シューベルトといった、ドイツ圏の作曲家ももちろん良いのだが、歳を重ねたピリスが演奏するフランス音楽を味わうのも素晴らしい。

そして後半、シューベルトのピアノ・ソナタ第21番変ロ長調D960。最晩年(と言っても31歳だが)に作曲した、最後のピアノ・ソナタである。D960は、ブレンデル内田光子などのライブを聴き、その度に超大作と言うべき素晴らしい作品であることを毎回感じてきた。

約45分のこの曲は、「天国的」な長さとも称され、聴いているだけでも集中力を使い切る感じなのだから、演奏する人はとてつもない技術・気力・体力が必要だろう。

ピリスが演奏する第1楽章、次々に繰り出されるアイデアに圧倒され、この楽章だけでも完璧に完成されていることを感じる。続いて、美しすぎる第2楽章、精神が解放されたかのような第3楽章。冒頭の旋律からつい鼻歌で歌いたくなるような第4楽章。素晴らしい演奏だった。

客席はピリスの復帰と、“引退“などという言葉からはほど遠い演奏に惜しみのない拍手を続けた。

そして、アンコールは再びドビュッシー。“2つのアラベスク第1番“。これからにも期待を持たせる演奏で幕を閉じた


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