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中島君とミカの行く手にあるもの〜中島弘象著「フィリピンパブ嬢の経済学」

昨日書いた、中島弘象著「フィリピンパブ嬢の社会学」。2017年に上梓された本書の最後では、著者の中島弘象が、研究対象だったはずのフィリピンパブ嬢ミカと結婚する。

6年の時が経過し、2023年6月続編となる「フィリピンパブ嬢の経済学」(新潮新書)が発刊されていた。

中島とミカに行く手には何があったのだろう。早速に入手して、一気に読んだ。

二人は、ミカの姉家族の家に居候、3LDKに7人で住んでいた。中島はたまの日雇いとアルバイト。フィリピンでは、仕事がない男が昼間からゴロゴロしているが、<あの頃の僕も、そんなフィリピンでよく見た大人たちと同じだった>(「フィリピンパブ嬢の経済学」」より、以下同)。

<「まぁ何とかなるだろう」と危機感もなくのんびりと過ごしていた。 子供ができるまでは。>

「おい中島、しっかりしろよ!」と、私は心の中で叫んでいた。

一つの軸は、外国人が日本に定住、家族を持ち出産・子供を教育していくという現実である。日々、実感される通り、外国人労働者抜きでは日本社会は回っていかない。都会で暮らしている身であれば、コンビニや飲食店、地方に行けば工場等で働く人々。彼らが、安心して日本で暮らしていくことができるように支援することは、日本社会の維持・発展には欠かせないだろう。

行政も努力はしている。本書を読んで驚いたのは、タガログ語の母子手帳があること。それでも、我々の意識を含め、まだまだやれることがあるだろう。筆者は、実体験を通じて得たものを、草の根的な活動を含めて社会に還元しようとしている。<日本には今、約296万人(2022年6月末現在(後略))の外国籍の人が住んでいる。〜(中略)〜外国人との共生は課題として挙げられている。>

もう一つの軸が“経済学“である。

香港に駐在することになり、驚いたことの一つ。日曜日に中心街の広場や、ビルとビルを結ぶ遊歩道に集まる大勢の東南アジア系女性たちである。ビニールシートを広げ、仲間とお弁当を食べたり、おしゃべりしたり、ゲームで盛り上がったり。さらに、路上で音楽に合わせてダンスを披露するグループもあった。

香港の一定以上の経済力のある家庭では、住み込みの家政婦・アマさんを雇う。ほとんどがインドネシアかフィリピンの人である。香港で部屋探しをすると、多くの物件でアマさん用の狭い部屋があることを発見する。キッチンにドアが付いていて、これも料理をするアマさんのスペースと、居住スペースを仕切るためのものである。彼女たちの休みは日曜日、家族同然に雇い主とレストランに出かける人もいるが、多くは上記の通り友人らとリラックスするために、街に出るのである。

私が勤めていたオフィスの隣には、古いビルがあり、その中には国際送金業者や、携帯電話販売会社が並び、ターゲット顧客はアマさん始めとする外国人“出稼ぎ“労働者である。彼らは、稼いだお金をせっせと本国に仕送りする。フィリピンパブ嬢も、同様に日本から本国に送金する。フィリピンにとって、<海外からの送金は、国のGDPの実に1割程度に当たる>。

ミカもフィリピンに住む家族に仕送りする。貰う方もそれを期待している。香港での光景を知る私は、一定程度の想像はできていた。しかし、本書に書かれたその実態は、もっと深いものだった。それは社会の成り立ちであったり、家族観を問うものである。

フィリピンへの送金は、中島とミカの生活の中で大きな位置を占める。単なるお金“経済学“の問題だけではなく、文化的な違い、二人はこの問題にどう立ち向かっていくのか。

前書に続き、二人の生活を傍観者として楽しみつつも、上記の二つの軸を含め、色々なことを考えさせられる。

是非、本書も手に取っていただき、彼らやその背後にいる人々を応援して欲しい


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