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新年最初の読書は〜呉勝浩「爆弾」

新年最初に読み終わる本としては、全く相応しくない一冊、それが呉勝浩の「爆弾」である。

仕方がないのです、昨年から持ち越してしまったので。

12月に入ると、各種ミステリーベストを参考に、気になったミステリー作品を数冊読むのだがこれはその一つ。週刊文春の国内1位は夕木春央の「方舟」。文春の紹介では、“水没までおよそ一週間 十人が閉じ込められた地下建築で殺人が起こる“。うーん、どうだろうか。宝島社「このミステリーがすごい」の方は、1位が呉勝浩の「爆弾」、文春では4位。「爆弾」の方にそそられる。

野方警察署に、スズキタゴサクと名乗る男が引っ張られてくる。酔っ払って酒屋の自動販売機を蹴り、店員に暴行を働いたというかどである。取り調べ中、スズキは自分には霊感があると言い、<「十時ぴったりに、秋葉原のほうで、きっと何かありますよ」>と刑事に伝える。そして、十時に秋葉原で爆弾が爆発、スズキは<「わたしの霊感じゃあここから三度、次は一時間後に爆発します」>。

野方署には警視庁から捜査担当が乗り込み、スズキタゴサクと警察との対決が始まる。

私がミステリー小説をなぜ読むか、エンターテイメントでもあり、頭の体操でもあり、小説世界との交流でもある。加えて、犯罪行為の裏側には、誰しもが持つ人間としての闇の部分が潜んでおり、それを見つめたいという欲求もある。

「爆弾」の中で、石川啄木の「一握の砂」にある、一つの詩が引用される。

人といふ人のこころに
一人づつ囚人がゐて
うめくかなしさ 

スズキタゴサクというのは一人の人間として描かれている。それは、本当に人間なのだろうか。人の心に住む、邪悪な観念の集合体なのではないか。そんな風に考えながら、小説を読み進んでいくと、それに呼応するかのようにドラマは広がっていった。

もちろん、ミステリーであり、エンターテイメント性も一流である。しかし、それだけではなく、多くの人が推した理由は、もっと深いところにあるのではないだろうか。

新年早々には相応しくない、“おめでたい“感じではない小説だが、呉勝浩という作家に出会ったことは目出たい出来事である。

なお、本作は受賞は逃したが167回直木賞候補作でもある


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