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松井今朝子「円朝の女」〜“御一新“に翻弄された人々

立川談春と柳家三三の「牡丹灯籠〜俺たちの圓朝を聴け!」公演で販売されている小本に、談春と松井今朝子の対談が掲載されている。

松井今朝子は、松竹にも在籍していたことがある、歌舞伎の演出・評論家だが、1997年に作家デビュー、2007年「吉原手引草」で直木賞を受賞した。

気になっている作家で、「吉原手引草」は“積ん読“状態なのだが、この機会にと思い、公演にも縁のある2009年刊行の「円朝の女」(文春文庫)を読んだ。

“円朝“とはもちろん、「牡丹灯籠」の作者、三遊亭圓朝のこと。彼をとりまく様々な女性を描くことによって、圓朝自身も浮かび上がらせようとする作品である。

語り手は、圓朝の門弟。ただし、二つ目の頃に落語に嫌気がさし廃業。“五厘“という芸人にくっついて上前をはねる稼業に鞍替え、圓朝のマネージャーのような男である。

圓朝は並の芸人とは違い、井上馨や福沢諭吉といった明治期の大物とも懇意にし、自作「塩原多助一代記」は教科書にものり、明治天皇の前でも口演された。

他の芸人とは一線を画する存在だった圓朝だが、四角四面の男であったわけではなく、女性との関係はそれなりにあり、その死因は梅毒だったとする。

こうした圓朝の人生を、様々な女性が彩る。

圓朝は、<江戸と明治を半分ずつ生きた(本書より、以下同)>。<御一新すなわち明治の後維新は、あたしが数えの十八でしたから、師匠(注:圓朝)はちょうと三十だ>。

「牡丹灯籠」について書いた際にも言及したが、圓朝の作品には、この江戸から明治へと社会が大きく変化したことが大いに反映されている。

この<大きな時代の変わり目>において、人々は大小様々な波をかぶり、それぞれの人生は変動する。「円朝の女」たちも、こうした荒波の中で、生き抜こうとし、そこに現れた三遊亭圓朝、御一新の中で、落語の存在を必死で継承・発展しようとした芸人と関わり合いを持つ。

巻末に春風亭小朝と松井今朝子の対談が掲載されているが、小朝は前述の“五厘“の<語り口が絶品ですね>、<まるで、うまい噺家の話を聞いているみたいなんです>と話している。

もちろん、作者の創作ではあるものの、圓朝の生きた時代が目の前に甦る。明治という時代、そこにあった落語、そして女性たちの人生、存分に味わうことができる作品である


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