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年末になって衝撃を受けたマンガ〜坂上暁仁「神田ごくら町職人ばなし」

2023年12月18日付、毎日新聞夕刊、「この1年[漫画]」という記事を漫画家のいしかわじゅんが書いている。私が購読している新聞等を通じて目にするマンガ評の中で、参考にするのは中条省平といしかわさんのそれなので、早速目を通した。

冒頭にあるのは、<出版危機が叫ばれて久しい>(本記事より、以下同)が、<漫画の売り上げは増え続けている〜(中略)〜電子書籍が伸び続けているのだ>。今や6割以上の売り上げが電子らしい。

かく言う私も電子書籍派。スペースの問題という障壁がない上、バーチャル空間での購入は心理的なハードルが低い。ついつい買いすぎて、そのうち忘れてしまうこともある。

本記事は続いて、“2023年の漫画10選“を紹介している。松本大洋の「東京ヒゴロ」(小学館)。そうそう、完結したので買っておいたのだ。すっかり忘れていた。

トップに上がっているのは、坂上暁仁「神田ごくら町職人ばなし」(リイド社)。何かの記事で読んで、読みたいと思っていたのだ。いしかわさんは<作品自体が丁寧な職人の仕事のようだ。(中略)〜作者の漫画に対する気持ち、人生に対する姿勢が伝わってくる。今年一番印象に残った作品だった。>と書く。

これは早速読まねばと、利用するebookjapanのサイトにログインしたら、すでに購入済みだった。

あわてて読み始めて、ちょっと衝撃を受けた。

第1話「桶職人」、第2話「刀鍛冶」と続く、江戸の職人の話。まずその画力に圧倒される。緻密で上手いだけでなく、迫力・時代の空気が伝わってくる。立川談志の表現を借りれば、“江戸の風“が吹いている。中でも職人の世界にスポットライトを当てた着眼点も素晴らしい。使い捨ての時代から、サステナブルな社会に移行しようとしている今こそ、職人の仕事を見つめ直すべきである。

作者の坂上暁仁は、この作品が単行本デビュー。こんな才能がどこに隠れていたのかという感じ。第4話までは独立した短編なのだが、

第5話からは「左官」をテーマにした中編になっており、物語・人物像の掘り下げが一段と深くなる。我が家の壁は、左官職人が塗ってくれた漆喰壁なのだけれど、それを見る目も変化しそうである。

現在も“トーチWeb“で発表が続いており、これはしばらく楽しめそうである。この年の瀬になって、こんな出会いがあるなんて。アニメ化等もされる派手な作品だけではなく、本作のような傑作を支える日本のマンガ文化の懐の深さに改めて感心する。いしかわさんのコラムのタイトルにある通り、<いまだ続く豊かな平野>である。

貪欲さを忘れてはいけないと、改めて感じるのだった。

もっとも本作こそ、美しく印刷された紙の本で楽しむべき。でも、場所がないんです。ごめんなさい!


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