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小林信彦が選ぶ“エノケン映画ベスト3“そして〜「決定版 世界の喜劇人」

文藝春秋の八月号(先月発売号)の特集は、「昭和100年の100人 激動と復活編」、昭和天皇から始まる100人を100人の書き手が紹介する。

芸能人が並ぶセクション、“喜劇王“榎本健一について小林信彦が書いている。週刊文春の連載も随分前に終了、小林さんの文章に触れる機会が減っている中、貴重な寄稿である。この中でエノケン映画ベスト3を選んでいるので記録しておく。

  1. 「エノケンのどんぐり頓兵衛」(1935年)

  2. 「エノケンのちゃっきり金太・前後編」(1937年)

  3. 「エノケンの頑張り戦術」(1939年)

番外的に、黒澤明監督「虎の尾を踏む男達」(1952年)、マキノ正博監督「待って居た男」(1942年)に言及している。

さて、本題は小林信彦が今年上梓した「決定版 世界の喜劇人」(新潮社)である。“あとがき“で、小林さんは<もう91歳になりました>(「決定版 世界の喜劇人」より、以下同)と書いている。

ルネ・クレール監督「ル・ミリオン」に関する記事で少し触れたが、改めてまとめておく。

“あとがき“にこうある。(正確には1983年の新潮文庫版『世界の喜劇人』あとがきの引用)
<本書には、三つの異本(ヴァリアント)がある。〜(中略)〜 a「喜劇の王様たち」(校倉書房1963年) b「笑殺の美学」(大光社1971年) c「世界の喜劇人」(晶文社1973年)の三冊であり、いずれも絶版になっている。>

私が大学時代に入手したのが、グラウチョ・マルクスが表紙を飾るc「世界の喜劇人」(中原弓彦名義)であり、これと対になる「日本の喜劇人」(いくつかの異本があるが、最新版は2021年に新潮社から出版された「決定版 日本の喜劇人」)に出会わなければ、私のその後は違ったものになっていたであろう。

本書は喜劇映画の歴史をなぞりながら、活躍した喜劇人らを紹介するのだが、その核になるのは、勿論マルクス兄弟である。

“附・小林信彦インタビュー“によると、<晶文社が、『日本の喜劇人』の後、『世界の喜劇人』も出してくれることになった。ちょうどその頃、世界を一周したら安くなる航空券があったんですよ。>。こうして小林さんは、ヨーロッパからアメリカにまわり、<日本で観られなかった古い映画をたっぷり観たんです。とりわけマルクス兄弟の映画をすべて、それも繰り返し観ることができたのは大きかった。>

これによって、晶文社版「世界の喜劇人」は完成。その成果を私は読むことができ、マルクス兄弟の映画に触れ、“喜劇“について考え(小林さんの本を読むまでは、“考える“対象とは思っていなかった)、世界が広がった。

こうした影響は当然私だけではなく、日本の中に、小林信彦チルドレンのような人が多く生まれただろう。小林さんは、<あの本(注:永井淳と共訳したポール・ジンマーマン著「マルクス兄弟のおかしな世界」)や『世界の喜劇人』が世に出たことは、日本の状況を変えられただろうか。>と控え目に結んでいるが、私は間違いないく「是」だと言いたい。

本書は、晶文社版収録文に加え、“II 「世界に喜劇人」その後“として、小林さんが各所で書かれたものが収録されている。改めて眺めると、ワイルダー、ルビッチ、ウディ・アレン、メル・ブルックス、スティーブ・マーティン、私の好きな人ばかりである。

いや、小林さんのおかげで好きになったのだ


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