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新たなる世界の始まり「桂二葉チャレンジ‼︎ 第2シリーズ」(その1)〜“鉄板ネタ“と兼好の話芸

桂二葉(によう)を初めて観たのが2022年10月「桂二葉チャレンジ‼︎」と題し、人気落語家の胸を借りるという公演である。その第1回、春風亭一之輔をゲストに迎えていた。次は同年11月は独演会、ゲストは笑福亭鶴瓶。その時の感想記事で、私は<桂二葉、まだまだ“ふたば“である。しかし、“せんだんは二葉より香ばし“、すでに香りを放ち始めている>と結んだ。

あれから1年強が経った。人気者となり、多くの高座やTV出演をこなしてきた桂二葉。新たな世界を開こうと、「桂二葉チャレンジ‼︎」の第2シリーズを開始した。今回の趣向は、毎回ネタおろし。そして、今回のゲストは実力者の三遊亭兼好。会場は、引き続き有楽町朝日ホールである。

開口一番、柳家ひろ馬「黄金の大黒」に続いて上がった桂二葉、新しいチャレンジの趣旨を話した。「酔っ払い、子供、アホを演じることを続けてきたが、その自分ではやらないであろうネタに挑戦しよう」と考えたという。その一つとして、上方落語の大作「たちきり線香」もやる予定、「『たちきり』、全然面白くないと言っていたのだけれど、一度も演じることなく批判するのは失礼だと考えた」。

さらに、米朝一門にあっては、大師匠桂米朝を“是“としているが、本当にそうなのか、「米朝を疑う」ことをすべきではないかとする。売れたとは言え、まだ入門10年強の若手噺家が、800人程の満員の客席に向かって「米朝を疑う」と言い放つ。ほんまもんのアホか、末恐ろしい大物なのか。

最初のネタは「上燗屋」。「首提灯」の前半でもあり、桂枝雀の録音で楽しんできた爆笑ネタである。桂二葉の得意三体の一つ“酔っ払い“が登場。居酒屋の主人とのバカバカしいやり取りは、彼女のお手のものという感じで、会場は大いに沸いた。

“鉄板ネタ“で、客席を十分に満足させた上で、後半のネタおろしに挑もうという姿勢が感じられた。

三遊亭兼好、師匠の好楽の良い意味での脱力感を継承しつつ、噺は滅法上手い。この日は、「陸奥間違い」というネタで、私は初めて聴いた演目。穴山小左衛門という御家人が、金策のため同僚の出世頭、松納陸奥守に借財を申し入れようと考える。家来の権助に手紙を持たせて使者とするのだが、道中で行き先を忘れてしまう。権助は手紙を御隠居に見せるのだが、宛名には「松 陸奥守」とある。

敬意を表するための「闕字(けつじ)」という書き方で、御隠居は天下の副将軍“松陸奥守“だとする。こうして、権助は副将軍のお屋敷を訪問し、お金の無心を始めると。。。。。

当然、バタバタの展開となるのだが、兼好が実に上手い。明るい高座、聴き手を心地よくさせる口跡、これぞ落語という一席に、会場も笑いに包まれた。

この事件がきっかけとなり、間違いの元となった、二人の陸奥守について、将軍・徳川家綱が一本にまとめるという沙汰を下し、おめでたいフィナーレ。

爽やかなエンディング、長く盛大に続いた拍手と共に幕が降り、中入りとなった


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