見出し画像

直木賞対決〜「黒牢城」と「テスカトリポカ」

先日、第166回の直木賞が発表され、今村翔吾「塞王の盾」と共に、年末様々なミステリーベストを独占した、米澤穂積の「黒牢城」が受賞した。

週刊文春を始めとする、ミステリーベストについては昨年末触れた。それ以降、文春ミステリーベスト10「このミス」共に1位の「黒牢城」、同2位 佐藤究(きわむ)の「テスカトリポカ」と読了していた。丁度そんな時に、直木賞の発表があった。「テスカトリポカ」は第165回の直木賞受賞作である。

さて、私の中の両者の対決(別に対決させる必要もないのだが)はどちらに軍配が上がったか。

先に読んだのは「黒牢城」。荒木村重により土牢に幽閉された黒田官兵衛。一方の村重は織田軍に包囲されているのだが、城内などで起きる事件につき、官兵衛の知恵を頼む。官兵衛を探偵役とした、アームチェア・ディテクティブの形式をとった、歴史ミステリーである。

念のため、アームチェア・ディテクティブ〜安楽椅子探偵とは、現場におもむくことなく問題を解決する探偵や刑事であり、ミステリーの一つの形式となっている。ジェフリー・ディーバーが創作した、下半身付随のリンカーン・ライム(第1作「ボーンコレクター」)などが有名である。

米澤穂積が過去にベスト1位を獲得した作品2作、2冊とも読んだが、さほどノレなかった。そして3度目の正直は、うーん、やっぱり合わなかった。確かによく出来ている。上質のミステリーであることは認める。それでも、テンポが合わない、簡単に本から気持ちが離れてしまうのである。

一方の「テスカトリポカ」。メキシコ〜インドネシア〜日本と、舞台をダイナミックに変えるクライム小説である。多くの人物が登場するが、それぞれキャラが立っている。ただし、相当にバイオレントな描写が数多く登場する。主人公はメキシコの麻薬カルテルのファミリー出身。この本を読み終わった頃、日本とメキシコの麻薬カルテルの結びつきを表すニュースが流れていてた。現実離れした世界を描いた小説(悪い意味ではない)と思いながら読んでいたが、リアリティを感じ、ちょっと恐ろしかった。

「黒牢城」が優等生とすれば、「テスカトリポカ」は暴れん坊のガキ大将である。慕う人もいれば、毛嫌いする読者もいるだろう。

私は前者だった。読みながら、現代版の大藪春彦のようにも感じた。独特の作風で、他の作品はどうなっているのだろうという興味も湧いた。(「QJKJQ」「Ank: a mirroring ape」と本作を合わせ、佐藤は“鏡“三部作としている) 今、気づいたが「Ank」は大藪春彦賞を受賞していた。

という事で、私としては「テスカトリポカ」の勝ちである

画像1


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?