「冷蔵庫が壊れたんだ」〈前編〉
あれは初夏のことでした。
わたしはお一人暮らしやご夫婦のみの高齢者世帯の安否確認をするために外回りをしていました。
すると、一人で外を歩いている男性とすれ違いました。
パッと見た感じは、まだ60代後半くらい。
足取りもしっかりした感じ。
しかし、衣服がヨレヨレ。
ヒゲも髪も伸び放題。
なんだか気になったので、この男性(以下、Qさん)に「こんにちは」と挨拶をしてみました。
普段なら、特に何も困っていそうにない方のことはスルーしたり、「もしどなたかお困りの方がいたらご相談ください」と名刺やチラシをお渡しするのですが、なんとなくこのQさんは何かに困っていそうだなという気がしました。
しかし、もし「何かお困りのことは無いですか?」とストレートに聞いたら「無い」と答えられそうなので、まずは世間話からスタートして、さりげなく聞いてみることにしました。
なお、Qさんの話を聞いていて気になった箇所を太字にしています。
わたし
「今、このあたりのお一人暮らしやご夫婦のみのご年配の方々のご様子を確認して回っているんです」
Qさん
「へー。大変だね。俺も一人暮らしだよ」
わたし
「そうなんですね。昔からお一人暮らしなんですか?」
Qさん
「いいや。おふくろが今年の春に死んだんだ。それから俺一人だよ」
わたし
「そうなんですか。それはお辛いですね…」
Qさん
「ありがとう。おふくろが死んで4か月くらいかな。寂しさには慣れたんだけど、冷蔵庫が壊れたのが一番の困りごと。悪いことは続くね」
わたし
「そうなんですか。冷蔵庫が壊れたら、これから先どんどん暑くなってくるから大変ですね」
Qさん
「そうなんだよ。冷蔵庫だけじゃなくてエアコンも壊れたんだよ。暑くてまいるよ。だから、今からパチンコ屋に涼みに行くところなんだ」
わたし
「冷蔵庫と同じタイミングでエアコンも壊れたんですか? 大変ですね」
Qさん
「そうそう。しかもテレビも壊れたんだ。悪いことって続くんだね」
わたし
「本当に壊れたんでしょうか? 失礼ですが、ブレーカーが落ちている可能性はありませんか?」
Qさん
「いいや。ブレーカーは問題ない。どれから買い換えれば良いか分からないよ。何から買うべきかな? でも、お金がないからまとめては買えないよ。おふくろの年金が入ってきた頃は良かったのになあ」
わたし
「そうなんですか。お母様を頼りになさっていたんですね」
Qさん
「そう。何もかもおふくろがしてくれてた」
わたし
「優しいお母様だったんですね。今、お買い物やお掃除はどうなさっているんですか?」
Qさん
「買い物はコンビニで。掃除はしてないよ。もともと苦手なんだ。ゴミ出しはなんとかしてるんだけど。あー、嫌なこと思い出した。この間ゴミのことで自治会長さんに怒られたんだよね」
わたし
「どう怒られたんですか?」
Qさん
「〝自治会費を払わないならゴミ捨て場にゴミを捨てるな〟って。そんなルール知らないよ。誰も教えてくれなかったし。仕方ないから支払ったよ」
わたし
「それは驚かれましたね。これまではお母様が自治会費のお支払いもゴミ出しも全てしてくださっていたんですか?」
Qさん
「そうそう。何もかもおふくろがしてくれてた」
わたし
「本当に頼りになる方だったんですね。暑い中、長話になってすみません。お出かけの途中なのに。もし良かったら、わたしと他の職員の2人で、近いうちにご自宅へ様子を見に伺ってよろしいですか?」
Qさん
「散らかってるけどいいの? 良ければ来てよ。友達もいないし、一人っ子だし、喋る相手がいないから今日は楽しかったよ。俺はすぐそこの青い屋根のうちに住んでる。パチンコとコンビニに行く以外は家に居るから来てよ」
わたし
「ありがとうございます。あのおうちですね。もし良かったらお名前とお電話番号もうかがっても良いですか?」
Qさん
「名前は〇〇。電話も壊れた。携帯電話はもともと持ってない。明日にでも来てよ。俺はいつでも暇だから」
さて、こんな感じでファーストコンタクトをしました。
わたしは早速色んな方々にQさんのことを聞いてみました。
⭐民生委員さんからの情報
「父親は数十年前に亡くなり、母親は今年の春に亡くなった。母親は入院していたようだ。本人が仕事をしたことがあるのかは分からない。よくパチンコ屋で見かける。母親も本人も地域の集まりに全く来なかったので、詳しくは知らない」
⭐️地域包括支援センターからの情報
「60代後半。特に相談履歴なし。介護保険は未申請」
〈後編〉ではQさんのお宅にお邪魔します。
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