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\あなたの「好き」をぶつけてください【番外編】/滝ガールとおらゑもんの「滝」と「サル」が好きすぎて 第1回

人生は一度きり。
そう、一度きり。
だから、
たくさんの人と知り合いたいし、たくさんの場所に行きたいし、たくさんの本を読みたいし、いろんな食べものを口にしてみたいし、知らないスポーツに挑戦したいし、聴いたことの無い音楽に耳をすませたいし、似合わないはずのファッションにも挑戦したいし……と、なんとまあ欲が多い。

知らない世界をどんどん知りたい! と、日々、動くものの、やはり自分の興味関心、趣味嗜好の枠内からはみ出すのは難しい。

そこで、みなさんの「好き」を「好きなんじゃー」とぶつけていただこうと思い、「好き」を募りはじめました。嬉しいことに「好き」をぶつけてくださる方がひとり、またひとりと現れました。そこで、みなさんからいただいた「好き」をインタビュー形式で深堀りしていくシリーズ「あなたの‘好き’をぶつけてください」がはじまりました。

今回は、【番外編】。「あなたの『好き』をぶつけてください」で「サルが好き」な気持ちをぶつけていただいている、おらゑもんさんのインタビュー記事に、「滝が好き」な滝ガールさんが共感をしてくれたことをきっかけに、今回の番外編鼎談が実現しました。さて、「サル」と「滝」への「好き」な気持ちはどのようにぶつかりあい、また、溶け合うのでしょうか。数回にわけてお届けします。

おらゑもんさんと滝ガールの出会い

なかむら「おらゑもんさんとのインタビュー第2弾で、おらゑもんさんの『サルが好き』という気持ちは、『愛』なのか、それとも『恋』をしている感覚なのかをおたずねしました。この質問をしたのは、『滝が彼氏です!』と明言し『滝ガール』という活動をしている友人・坂崎絢子さんのことが頭をよぎったことがきっかけです。ヒトではないモノを『好き』と感じる気持ちにも、さまざまな角度やレイヤーがあるはず、と。」



おらゑもん「そうそう、難しい質問でした。その質問には、わたしの『サルが好き』という気持ちは、隣人愛、家族愛に感情としては近い気がしていると答えましたね。滝ガールさんのことは、なかむらさんに教えていただき、はじめて知ったのですが、すぐに炎のような『滝』への熱意を感じました」

なかむら「『滝が彼氏』とズバッと言い切る潔さがかっこいいし、燃え滾る愛情を感じますよね! わたしと滝ガールさんの出会いのきっかけは『南方熊楠』で、南方さんについてもよく熱く語り合っています。そんな滝ガールさんもおらゑもんさんのインタビュー記事を読んでくださって、『おらゑもんさんに共感しかない!そして、滝も禅だと思っている!』 という感想をいただきました。 その言葉を受けて、こりゃあ、おらゑもんさんと滝ガールさんをつなげて、2人の『好き』をぶつけあっていただきたいという想いがふつふつとわきあがり……『あなたの❛好き❜をぶつけてください』プロジェクトの番外編が実現しました」

おらゑもん「ありがとうございます!『好き』の対象に対する想いに共感していただいて、とてもうれしいです。 滝はあまり訪問歴がないのですが、対談を通じて、ぜひ、魅力や楽しみ方について学べたら嬉しいです」

滝ガール「はじめまして! 滝が大好きな滝ガールこと坂崎絢子(さかざき・あやこ)です。滝ガールと呼んでいただいてOKです。この度は素敵なご縁をありがとうございます。おらゑもんさんのインタビュー記事を拝見して、すごくおもしろくて、お話してみたいと思いました! わたしは霊長類は初心者ですが、動物園は大好きで…全然マニアというほどではないのですが、振り返ると動物園についての思い入れは意外とあるなあと気付きました」

おらゑもん「そうなのですね、何か動物園とのエピソードがありますか?」

滝ガール「幼少期の父とのほぼ唯一のおでかけが上野動物園だったなあとか、中学生の時、動物園をテーマにしたコンピューターゲームを作っていたなあとか、雑誌編集者時代に動物園企画を立ち上げいろんな動物園を旅したり、アドベンチャーワールドが好きすぎて年1では必ず訪問し号泣したり、結構わたしの人生に『動物園』の存在が傍にありました」

なかむら「ふとしたことがきっかけで、自分の内側に眠っている、自分でも気づいていなかった、だけど知らないうちに自分の血肉になっていた大切なことに気づくことってありますよね」

滝ガール「『自分と動物園』というのは深く考えたことがないテーマでしたが、おらゑもんさんのお話を読んで、わたしの中にも何か響くものがありそうで。ということは、滝との共通点もあるんじゃないかしら、とか。まだ全然言葉にならない、フワッとした感覚です」

おらゑもん「ありがとうございます。『自分と滝』について考えると、名瀑と呼ばれる滝には憧れがありながら、なかなか間近で観察することはできていません。多摩動物公園に訪問する直前、2017年5月に激務の疲れを癒すため訪れた養老天命反転地そばの養老の滝(岐阜県養老町)や、北陸勤務時代、同僚と能登半島を旅した時に訪れた桶滝、垂水の滝(ともに石川県輪島市)を訪問したことがあります。

滝ガールさんのホームページを拝見して、滝へ魅かれていく過程や、掘り下げポイントの方向性がわたしが動物園へ向けるまなざしに似ている気がして、なんだかとても共感しました」

「養老の滝」撮影:おらゑもん


猿と人、滝と人

滝ガール「まず、わたしがおらゑもんさんのお話で共感を覚えたのが、インタビュー第1弾でお話されていた廣瀬鎮先生の『猿と日本人』についてのお話です。

「サルという生き物は動物好きの者だけのある種の特権のように、はじめからむちゃくちゃと好きになるということはないようで、むしろ最初のうちは、それほど好きでもなかったのに次第にとりこになって、やがて狂ほしいばかりに好きになるらしい」

廣瀬鎮『猿と日本人』より

おらゑもんさんが引用されたうえで、ご自身もこのような推移があるとお話されていることを受けて、わたしもそうだなあ! アプローチが似ていそうと、ハッとしました。滝の地質学的な成り立ちや種類などのほか、滝と日本人、滝と日本文化、滝と人、そういう長い歴史、複雑な関係性のところに、とても惹かれています」

なかむら「お2人とも、滝、サル、動物園への好き! なお気持ちの背景には、それらに関わってきた人や人々の営みへの興味関心も強くお持ちということでしょうか? 自然界の滝、サルだけど、地球に生きる以上、人との関係は切っても切れない?」

おらゑもん「まさに、そうですね。日本の動物園・水族館の歴史を築いてきた人々や、世界的に誇れる『日本の霊長類学』を打ち立てた綺羅星のような霊長類学者たち。『ヒト』の存在に目を向けずして、サルの世界も、動物園や水族館という場も語りえないと個人的には感じています。

写真は、2019年にわたしが描き、日本モンキーセンターに寄贈した『ファンアート』です。60年以上続くモンキーセンターの歴史は、たくさんの『人気者のサルたち』とともに、霊長類学者たちによっても彩られてきました。
今西錦司、河合雅雄、伊谷純一郎、西田利貞、山極寿一……。個性的な動物園であるとともに、戦後日本で独自に発展した知の成果が系統だって受け継がれている場所だと感じます」

なかむら「なんと!愛溢れるファンアート! 『人』がいるからこそ、サルに関するの『知』が学問や文化として系統立てられて、脈々と受け継がれていくのですよね。人がいるからサルの真実が見えてきて、サルがいるから人も学問欲にかられる。これも、また鏡ですね」

滝ガール「わー、すごいすごい! 霊長類学者たちと人気者のサルたちが一緒に並んでいるのが激アツです。みんな格好いい。リスペクトが伝わる… 日本独自の発展の歴史があるんですね。日本の独自性というところ、とても気になります」

おらゑもん「『滝』もヒトの文化が守り支えてきた部分がかなりあるのではないかと思っています。なかむらさんと滝ガールさんとの出会いのきっかけは南方熊楠とのことでしたが、熊楠が愛し自然を守るために尽力した南紀にも、名瀑『那智の滝』がありますよね」

滝ガール「そうなのです! わたしは、滝とヒトの文化という視点で書かれた本『滝と人間の歴史』(ブライアン・J・ハドソン)にかなり触発されました。この本はオーストラリアの土木学者の方が書いているんですが、自分としてはさらに『日本人と滝』に興味があります。特に那智の滝と熊野信仰を深く調べるようになって、日本固有の滝文化があるということに気付き、滝をそのように捉える日本人の精神性とはどういうものなのか、歴史的にどう扱われてきたのか、日本の地域によっても差があるのか、などと果てしなく興味が広がることになりました。滝ガールの他に、『滝文化ライター』とも名乗っているので、本当はもっともっとここを掘り下げたいと思っています! ちなみに熊楠については、滝ガールがこちらに熱く語らせていただいています(笑)」

【熊野と滝文化シリーズ・1】南方熊楠にハマる滝ガール | 滝ガールの活動報告サイト Takigirl -Waterfall & Peace-

おらゑもん「滝ガールさんの熊楠×那智の滝の記事、拝読しました…! すごく共感します。うつくしい景観もヒトの経済活動で姿を変えてしまったり、反対に観光資源として『利用』されることもある。だからこそ、自然の産物にまなざしを向けるとき、対象そのものだけではなく、その自然を取り巻くヒトの生きざまもともに見ていく必要があるな、と感じています」

なかむら「ヒトが地球上に存在する以上、文明を持って生活をする以上、自然に手を加えなくてはいけない場面は出てきてしまいますものね(それが痛々しく心苦しいことが多いのは悲しいです)。その点で、ヒトの生き様を見ずして自然は壮大だ! 美しい! といくら語っても、もしかしたら表層の上っ面だけの言葉として、すぐに吹き飛ばされてしまうのかもしれません。『お前はいきものか』、この問いを忘れないためにも、人としてのわたしと自然の関係を見つめることが大切なんだなと思いました。自然を守ったり、壊したり、愛でたり、怖がったり。ヒトは不思議でおもしろいいきものですね」

おらゑもん「地域性との関係性で言えば、動物園に通い始めた頃はあまり気にかけていなかった『ニホンザルの地域ごとの多様性』に今は興味ありますね。地域固有のニホンザルの群れの生態は、地域ごとのニホンザル受容の違いとともに、非常にゆたかな多様さをたたえていると感じます。

これは、わたしが描いた『全国の代表的なニホンザル生息地・野猿公苑マップ』です。ひとくちにニホンザルと言っても、津々浦々、実に様々な環境で暮らしています。それは日本人の多様さとも呼応していたり(笑)」


好きぬこう

なかむら「国や地域によって『滝』も意味が変わり、滝を入り口に日本人らしさを深く掘りさげることができる。『サル』のきっと生息地によって種類も性格も異なる、その多様性さを日本人にも当てはめて考えることができるかもしれない、とてもおもしろいですね。 『なぜ』を突き詰めていくと本質が見えてきますし、何かとの関係性に焦点を当てることで、双方の性格がよりわかってくるのでしょう」

滝ガール「わたしは滝、おらゑもんさんは動物園と霊長類、好きなものが起点となって、そのものと向き合っていくだけでなく、それらと他のものの関係性にフォーカスしていくことによって、普遍的な知に近づきたいという気持ちがあるのかな、なんて思っています。『滝は新しい世界への❛扉❜であり、真実を知らせてくれる❛ヒント❜でもある』というのは、皆さんの『好きなもの』にもきっと当てはまってくるんじゃないかな!」

おらゑもん「めちゃくちゃ分かります! 共感が止まらないです……!!
動物園も、『自然への窓』なんて言われることがあります。ヒト社会の中で自分が動物であることを忘れてしまった都市人が自然界の中の自分をイメージする最後の砦のひとつだ、そこに動物園の存在意義がある、という言説もしばしば繰り返されています。
けれど、あやこさんが『新しい世界への❛扉❜』としての滝に惹かれるように、動物園の役割は『自然』だけに押し込められない、と私は感じています。動物を主題にした伝承、アートなどの広義の『動物文化』や、人と動物との関係性といった、現実よりも広いイマジナリーな『知』の世界にまで繋がる『窓』。それが、『動物園が存在する意義』だと今の私も思っています」

滝ガール「この『窓』は、時空を超えられますしね。『自然だけに押し込められない』点にも本当に共感します」

おらゑもん「『好き』との向き合い方を突き詰めて考えたい3人が集まったからかしら、『分かる!!』がたくさん溢れてとっても幸せです(笑)」

滝ガール「そういえば、もう10年近く前だったと思うんですが、母を連れて、二人で軽井沢に滝の旅に出掛けたことがあったんですよ。たくさん連れまわして、わたしが滝についての思いをひたすら語って、それを聞いてくれて。で、温泉に入ってたときに『あなたがやりたいのは滝道(たきどう)なのね』と言われたんです。ああ、そうかもしれない! って。剣道とか、柔道とかと同じで、日本人の『道』って、人にとって大切な普遍的な真実、原理原則に近づくための道なんだと思うし、だとすると、確かにわたしが向き合いたいと思っているのは、滝道なのかも、って。おこがましいけど!『好き』の先には『道』があるんだ、この道を歩んでいけば、それぞれの道を歩む人たちともいつか出会える、それはきっとすごく素敵なことだろうな…と、確信がありました。それが、今、この対話なんですね〜。幸せ!」

おらゑもん「『窓』『扉』と来て、『道』が続きましたね!笑
ものすごく真理を言い当てていると思います。非常に日本的な『究め方』でもある、と。
そういえばついこの間から世阿弥の『風姿花伝』を読んでいて(長く気になっていながらようやく手に取れました)、芸の道を世阿弥が『申楽』と呼んでいたことに心動かされました。さらに興味を持って聞きかじり学問ながら文献を漁っていくと、『能楽』は、当初は滑稽な『申楽』=『猿芝居』だった、とも。
ぱっと見ただけでは滑稽でおかしな『道』でも、探究し磨きをかけることで誰も到達したことの無い世界を魅せてくれる。『滝の道』も『猿の道』も、それぞれの真理に通じている気がします。

ちなみに、最近わたしが綴った雑記も『道』としての探求を主題にしました。

【雑記】けものみちは万里に通ず|おらんうーたんになりたい。|note


『道』を歩んでいけば、他の『道』とも交わって、さらに遠くに行ける。今はそんな感慨を抱いています」

滝ガール「わー、滝の道と猿の道がつながった!『けものみちは万里に通ず』に書かれていた歩みの経緯。同じようなことが、わたしの滝の道を歩んできた中でも起きていたことをあらためて思い返します。あと『消費』するだけで、おしまいにしたくない、というのもすごく共感…」

なかむら「『幸せ』という言葉と感情が飛び交っていて、わたしも幸せです。わたしも、本とアートは新しい世界への『扉』だと思っています。

そして『道』かあ。きっと『好き』は、人生の『道標』にもなるし、道を切り拓くきっかけに繋がりますね。そして、その好きをキャッチした人にも、こんな道もあるんだよーと案内することができる。以前、とある美術史家で、人生の大先輩とお話ししていたとき『好きなとこをとことん突き詰めていったら、地球人の反対側の人とも出会えるよ』という言葉をいただいたことがあります。この言葉は、今でもわたしの中に強く残っています。好きなことを『好きぬこう』と思いました」

滝ガール「地球人の反対側の人とも出会える…いい言葉!
うんうん、好きぬこう!」

おらゑもん「『好きぬこう』、素敵なことばですね!!
色々なめぐり合わせがあって今ここに立っているけど、好きなことに対してまっすぐに『好き』と言えるありがたさを噛み締めます…!」



次回につづく。




プロフィール

滝ガール
坂崎絢子(さかざき・あやこ)
東京都生まれ、在住。大学生の頃から日本全国の滝めぐりに熱中。滝歴は約20年。「滝ガール」と呼ばれるようになり、2013年からウェブサイト Takigirl.net を運営。「滝文化の研究」と「滝の魅力の啓蒙活動」を軸に、ウェブや新聞でのコラム連載のほか、イベントなどで滝鑑賞ガイドも行う。滝から地球の平和を伝える「WaterFall & Peace」がモットー。滝のほかに好きなものは、ハロプロ、パフェ、さかなクンなど。本業ではビジネスやライフスタイル系の雑誌ライター・編集者を10年、資産運用会社での社長秘書兼マーケティング・広報を4年、2020年からフリーに。現在は「滝あやこ」の別名義にてホロスコープ鑑定士としても活動中。

滝ガールの活動報告サイト :https://takigirl.net/


おらゑもん
動物園・水族館を通して見える生きものとヒトの社会の在り方に関心があり、個人的な趣味として探究しています。霊長類に特に強く惹かれています。
twitter:@weiss_zoo
note:https://note.com/nostalgia_zoo


中村翔子(なかむら・しょうこ)
本屋しゃん/フリーランス企画家
1987年新潟生まれ。本とアートを軸にトークイベントやワークショップを企画。青山ブックセンター・青山ブックスクールでのイベント企画担当、銀座 蔦屋書店 アートコンシェルジュを経て、2019年春にフリーランス「本屋しゃん」宣言。同時に下北沢のBOOKSHOP TRAVELLERを間借りし、「本屋しゃんの本屋さん」の運営をはじめる。千葉市美術館のミュージアムショップ BATICAの選書、棚作り担当。本好きとアート好きの架け橋になりたい。バナナ好き。落語好き。本屋しゃんの似顔絵とロゴはアーティスト牛木匡憲さんに描いていただきました。
https://honyashan.com/


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