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김지은입니다 (キム・ジウンです)

김지영입니다.(訳:キム・ジウンです)
안희정 성폭력 고발 554일간의 기록(アン・ヒジョン性暴力告発 554日間の記録)

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2018年3月5日、JTBCニュースルーム (뉴스룸)の生放送で当時現職だったアン・ヒジョン(안희정)忠清南道知事の随行秘書、キム・ジウン(김지은)氏がアン・ヒジョン氏から複数の性的暴行、及びセクハラに合っていたことを告白した。

[인터뷰] "안희정 지사 성폭력" 폭로…김지은 충남도 정무비서 (2018.03.05)
“インタビュー アン・ヒジョン知事 性暴力暴露 キム・ジウン忠清南道政務秘書“
https://www.youtube.com/watch?v=o7TO1Pv_t2s

2018年の1月、ソ・ジヒョン서지현検事から始まったMetoo運動は大きな広がりを見せた。 

([인터뷰] '검찰 내 성추행 폭로' 서지현 검사 (2018.01.29) インタビュー 検察の中のセクハラ暴露 ソ・ジヒョン検察)

https://www.youtube.com/watch?v=QjHcQhmfIVo&t=793s)


加害者であるアン・ヒジョン氏は、2016年の大統領選挙の党内予備選挙(この選挙で選ばれたのが、現大統領ムン・ジェイン(문제인)氏)で健闘し、次期大統領候補としての声も高かった。アン・ヒジョン氏は、左派、リベラル派で女性やLGBTの権利に対しても積極的に支援する姿勢を示す政治家で若者からの支持も高かった。(引用;https://newsdekorean.com/script/003-2/

この本は、その被害者であり、被害を告発した随行秘書であったキム・ジウン氏が2018年3月5日から、判決が確定した2019年9月9日まで554日間の記録を綴った本だ。今年2020年3月5日に出版され大きな話題となっている。


○Metooの背景

この本の構成は「1.Metoo 権力に対する告発」「2.労働者、キム・ジウン」「3.被害者 キム・ジウン」「4.世界との断絶」「5.それでも生きていく」「6.#with you 連帯の心を一つに」の6章に分かれている。
この中で2章、労働者キム・ジウンの章は、キム・ジウン氏の今までの生い立ち、そして随行秘書としての仕事が詳細に書かれている。政界で随行秘書として働くことの特異性、そして社会が抱えている労働問題による、彼女が置かれた労働環境について書かれている。
全編を通して言えることだが、この事件は彼女だけに起きた「特異な事件」ではなく社会の延長線上、自分が住んでいる世界の延長線上にあるということが込められている。その中でもこの第2章はそれを担保する章である。

○被害者らしく


「被害を受けたときも「いやです」と拒否や反抗もしましたが、これは消極的な姿勢だと見なければならない。男性に対しての「いいえ」は拒否ではない。否定は肯定である、抵抗はより積極的に「いやです」「だめです」と声にだして足で蹴ったり拳で叩いたり、引っ掻いたり、外国の深夜でも外へ飛び出してロシアやスイス の警察に助けを要求しなければならない。それはソ・ジヒョンを飛び越すMetooの象徴になりたくて放送局でMetooをしたことです。被害者らしくないので決して被害者ではない。」

これは、アン・ヒジョン側の弁護士がキム・ジウン氏に対しての質問と論理を要約したものだ。最後に出てくる「被害者らしく」はこの本を通してよく出てくる言葉であり、キム・ジウン氏がその言葉によって、その後の行動の範囲を狭められ、日常生活の復帰を困難にしているエピソードが出てくる。

○受け止めうる社会か。

この事件が世に明るみに出たキム・ジウン氏の生放送への出演。顔も実名も公表するリスクは計り知れないのに、何故その選択をしたのか。選択をしたのではなくせざる得なかった。自身の命の危険を感じ、国民の前で公表し自身を守ってもらうためにその選択肢しか存在しなかったという。
それに対して応えられる社会かどうか。この問いはこれを読み、もしこの本を読むことになったら自身に投げかけることになる問いの一つなのではないかと思う。
彼女の出演という選択には間違いなくMetooの影響がある。そして彼女の相談に初めて応え、「助けてあげる」と言った職場の先輩、生放送後にキム・ジウン氏に「よくやった」(잘했다)といった、女性団体活動家の活動。被害者の弁護団。加害者側の圧力がありながら彼女の裁判で証言をした人々、声をあげる人々、運動。
伊藤詩織さんが今日本ではなくイギリスに住んでいることの事実も考えれば、これは問いかけていかなければならない問いである。

「性暴力」と3文字キーボードで打つことも、ニュースで流れた3文字を読むことは簡単だが、性暴力に遭うことに対して社会の無関心と偏見の目、そして自分自身がそれを内面化してしまっていることをこの本を読みながら気付かされた。読み進めれば読み進めるほど、性暴力が精神の殺人と言われること、その過酷さが字面から読み取ることができる。そして、性暴力を告発したあとに発生する過酷な2次被害の数々は日常の殺人であった。

最後の付録にキム・ジウン氏が、判決が出たあとや受賞の際に出した言葉がまとめてある。その文章に自己紹介として書かれる形の一つに「こんにちは。性被害生存者のキム・ジウンです。」(안녕하세요.성폭력 피해 생존자 김지은입니다)という文がある。これは全ての判決が決定したあとから使われる文言でもあり、本の中でも本当に最後の最後で見ることになる言葉だ。生存したという言葉が使えるようになったということ、そして本を読み進めてきたらその「生存者」という言葉は決して大げさでない言葉であることはわかる。

○書店と本

出版から6ヶ月が経ったが、どの書店にもこの本はほとんど置いてあり、存在感を放っている。実際その本を購買、SNS上に#をつけてアップする運動も行われた。これは今なお続く被害者への二次被害に対する抗議の意味も含まれている。置かれ続ける、そしてそこに置いてあり目にすること自体が大きな影響力を持つことを身にしみて感じ、改めて書店で置かれるという意味を考えさせられた。

Metooをした当事者であるキム・ジウン氏、そしてとともに戦った多くの支援者や活動がいなければ、この本が出版されることなく、私もこの本と出会うことはなかった。この本が出版された意味、存在自体が私達に訴えかけるものは数え切れないほどある。


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