後ろを向いたおじさんの車列
「目の前の本人よりも、記憶の中のその人。」
「そこそこの現実よりも、美化された記憶を…」
少し前を行くおじさんは、こちらを向いたまま、そう言った。
いま僕に、おじさんの姿は見えない。僕もまた、おじさんと同様、進行方向と逆を向いたまま進んでいるからだ。
記憶の中の素敵な思い出に溺れながら、後ろ向きおじさんの車列は進んでゆく。
前をいくおじさんの姿、それは紛れもなく数年後の自分の姿だった。
前を向いて、歩みを進めていれば、その愚かなおじさんの姿を捉える事ができただろうに。
後ろ向いたままの僕が、それに気づくのは、このときのおじさんよりも、ずっとおじさんになった後の話だ。
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