戯言#3〜とあるアイドルの戯言〜

これは、どこか遠くはるか昔にアイドルだった、誰かのお話。

* * *

「お前はさ、そんなレベルの見た目で、裏切られないとでも思ったのかよ」

私の中の、もうひとりの自分が囁いた。そうだ。人は裏切る生き物だ。

私はあらゆる場面、現場や会場で浴びせられる言葉の真意を、汲み取りあぐねていた。そして、ヲタクたちは、その、誰を推してもなにも問われない立場をいいことに好き勝手に、推し変していた。

昨日信じた、単推しのヲタクが、次の日には別の子を、twitterで崇めたてまつる。そんなことが日常茶飯事だった。

だんだんと、期待しなくなった。
ああ、人はこういうものだなって。私が何を表現しても、私がどんなに可愛くなろうとも。去る人はさり、来る人は来たり。ずっと好きで居てくれる人はいないんだと。

「いつも握手に来てくれる〇〇さん、地下の〇〇さんが好きなんだ。」
「Twitterで〇〇さんにいいねしてる。」「さっき、私のレーンで単推しだって言ったあの人は、隣のレーンでチェキをとってる。」

そんな些細な変化にも、少し鈍感になった自分がいる。

アイドルはきっと燃え続けるものだ。燃え続けなければその熱量に呼応してくれる人はいない。誰かに熱を与え続けなければ、次第に暗闇の中に消えていってしまう。夜空に輝く星が、恒星が、その燃焼をやめたときに、暗闇に溶け込み、夜空から消えていくように。輝き続けなければ、だれもその輝きに目を止めてくれる人などいない。

「でもさ、その恒星がなければ、惑星や地球や月みたいな星は誕生しなかったんだよ。」

誰かの人生を、彩る、恒星に、私もなりたかった。
アイドルをやめて、そんなことをふと思った。

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