ココア

忘れないで初夢

大晦日、お雑煮用の鶏ガラ出汁は取ったし、さらに強火で二番出汁まで取ったし、さらにさらに鶏ガラからこそげ落とした鶏肉をマッシュポテトに加えて、パン粉をまぶしてカリッと揚げたし。

残った骨の残骸は、もう犬だって見向きもしないだろう。鶏もここまでされたら本望である。


しかし、何かを忘れている気がする。

豚バラのかたまり肉は塩漬けにしたし、豚肩ロースのかたまり肉はおろし玉ねぎとしょう油とはちみつを揉み込んで寝かせてある。だが、もっと重要な何かを…。


30代の後半になって、尿意で目が覚めるようになった。昨晩、二番出汁で作った白菜鍋をつつきながらビールを飲んだせいもあり、今朝の「意」は特に強烈だ。
飛び起きてトイレに駆け込み、ホッとして布団に戻ると、スマホの画面で元旦であることを思い出した。

初夢…。私の2018年を占う初夢は。

富士山でもなすびでもなく、津村記久子だった。
芥川賞作家で、新井ナイトにも出演してもらったことがある、大好きな人だ。

あのとぼけたような、ヘナヘナと力が抜ける大阪弁が、まだ耳に残っているから間違いない。
彼女に「考えておく」と約束したことがあったのにすっかり忘れていて、「考えてへんのかい」と突っ込まれる夢やった。

わ、ほんのり口調が伝染ってる。

私は東京生まれの東京育ちだが、どこのご出身ですか?とよく聞かれるのだ。身近な人に影響されやすいのか、ほんのり訛っているらしい。


それは私が過去に、大阪人と付き合っていたから…。

という理由だったらかっこいいんだが、言うほど長くは付き合っていない。

というか、正確には付き合ってない。付き合うって何。

私のポジションは本命ではなく浮気であった。

(※『探してるものはそう遠くはないのかもしれない』参照)

ほほう。

ただ、私にはそれくらいでちょうど良い。とても好きだったが。

明日目が覚めたらすっかりこの愛情が立ち去っているかもしれないし、明日会いたい人はこの人ではないかもしれない。相手にも、もしそうなったら我慢はしないでほしい。正式に付き合うことで、お互いの自由な未来が消えてしまうのが嫌なのだ。


知り合いの結婚指輪が目に入ると、だからギョッとする。誓い合えちゃったんだ。すっごいなって。なんかハラハラしたりさえする。いなくならないかって。

大晦日の夜、青山美智子さんの小説『木曜日にはココアを』を読んだ。

その中に、結婚して50年の素敵な夫婦が出てくる。新婚3日目で「永遠の愛」について不安を覚える女性に対し、その奥さんは《愛そうと決めて愛するのではないからね。愛は本来、すこぶる自由なものよ》と答えていた。

おぉ。それで50年いけることもあるのか。

一生心は変わらないと誓えなくても、今この瞬間に「50年後も一緒にいたい」と本気で思ったのなら、とりあえず今そう思いましたことをここに誓います、でもいいのかもしれない。それは嘘じゃないもんね。

それくらいなら私にも誓えそう、とずいぶん気が楽になって、除夜の鐘を聴いたのだった。

完。



いやいや、まだだった。津村さんとの約束をまた忘れている。

つづく。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?