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雨の中傘をさして

雨の日。見上げるとドームのような傘の骨。

自分の周りが傘に覆われていることにとても安心する。

人の悪口や剥き出しの感情、オブラートに包み過ぎた言葉。

そういう事から少し距離を置ける日。

そんな感じがするから、私は雨の日が好きだ。

交差点での信号待ちの時間。どんな顔をして待っていればいいのだろう。本を読むには短すぎるし、ぼーっとしていると長く感じる。

落ち着かなくて視線を泳がしていると、向かい側で信号を待っている人と目が合った。思わず目線を下に落とすと、濡れたスニーカーが心細そうに水溜まりに浸かっていた。

あの人は一体何を考えているんだろう。スマホを目的が無さそうにいじっている若者。前で軽く組んだ手を見つめている女性。ママチャリに乗っている男性。

信号を待っているあの人は一体、何を思ってこの時間を過ごしているんだろう。

信号が青になり人が動き出す。ほっとしたように動き出す。まるで自分のやるべきことが見つかったと言わんばかりに前を向いて。

私は信号を待つ時間は特別に感じます。待っている人の間に通じる、妙な意識。たまにそれを感じたくて、渡る必要のないところで、信号待ちをしてみることもある。

あの意識はなんて言うんだろう。分かる時がくるだろうか。それとも、それが気にならないくらいの人間になれるだろうか。

終わり




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