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『共産党宣言』 – 日めくり文庫本【2月】

【2月21日】

 最近二十五年間に事情はおおいに変化したが、それでもこの『宣言』のなかにのべられている一般的諸原則は、だいたいにおいて、今日もなお完全な正しさを失っていない。個々の点はところどころなおさなくてはならないだろう。これらの原則を実際にどう適用するかは、『宣言』がみずから言明しているように、どこでも、またいつでも、歴史的にあたえられた事情にかかるものである。だから、第二章の終りで提案されている革命的諸方策には、決して特別な重みはおかれていない。今日ならば、この章句は多くの点でちがったいい方をすべきであろう。最近二十五年間における大工業のはかり知れない進歩や、それとともに前進する労働者階級の党組織や、二月革命をはじめとしさらに進んでプロレタリア階級がはじめて二か月のあいだ政権を握ったパリ・コミューンの実践的諸経験を考えれば、この綱領は今日でところどころ時代おくれとなっている。特にコミューンは、「労働者階級は、既成の国家機関をそのまま奪いとって、それを自分自身の目的のために動かすことはできない」という証明を提供した。(『フランスにおける内乱、国際労働者協会総務委員会の建言(アドレッセ)』を見よ。ドイツ語版一九ページ。岩波文庫版九〇ページ。ここにこの点の詳しい説明がある。)さらに、社会主義諸文献の批判は、一八四七年までしかないのであるから、今日ではそれが不充分であることはいうまでもない。同様に、種々の反対党に対する共産主義者の立場に関する記述(第四章)もまた、基本的な点では今日でもなお正しいが、こまかい点では今日ではすでに時代おくれとなっている。というのは、政治情勢は全然ちがったものとなったし、歴史の発展によって、そこにあげられている諸党派の大部分はこの世から消えてしまったからである。
 しかし、この『宣言』は歴史的文書であって、われわれはもはやそれに変改を加える権利をもっていない。今後版を改めてることがあれば、おそらく一八四七年から現在に至る間の橋わたしをする序文をつけることになろう。この版は、こんなに早く出ると思っていなかったので、それをする時間がなかった。
 ロンドン、一八七二年六月二十四日

「一八七二年ドイツ語版への序文」より

——マルクス、エンゲルス『共産党宣言』(岩波文庫,2007年改版)8 – 9ページ


1848年2月21日、ロンドンで印刷・発行された『共産党宣言』。
『宣言』が公共(public)性を獲得しているからこそ、25年後に加えられた上の序文では慎重に「無謬性」を回避しているのが伝わります。

/三郎左

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