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『フランケンシュタイン』 – 日めくり文庫本【8月】

【8月30日】

 この発見で最初に感じた驚きは、まもなく大きな喜びに変わりました。つらい努力に長い時間を費やした後、一気に自分の願望の頂点へ到達したことは、努力の結果としてきわめて満足のいくものでした。発見が実に大きな圧倒的だっただけに、わたしはここに至るまでの歩みをすべて忘れてしまい、結果だけを見つめていました。
 世界の創造以後、賢人たちが研究して願ったものが、今やわたしの手の中にあるのです。とはいえ魔法の世界のように、こうしたことが忽然として目の前に開けたわけではありません。わたしが手に入れた知識は、それ自体が獲得すべき目的だったわけではなく、そこに示された研究の方向性が、努力すべき目的を教えてくれるものだったと言えるでしょう。死者と一緒に葬られたアラビア人のシンドバッドのように、わたしはかすかな、役にも立ちそうもない明かりを手にして、生命への道を発見したのです。
 さて熱心に耳を傾けてくださっているようですが、あなたの目に浮かぶ驚きと願望を拝見すると、どうもわたしが知ることになった秘密がどのようなものだったのか、知りたがっておられるようですね。しかし、残念ながらそれはできません。どうか最後までじっくり話をお聞きください。そうすれば、わたしがなぜ語らないのか、すぐにご理解いただけると思います。あのときのわたしのように、あなたを何の備もないまま熱に浮かれさせ、破滅に追い込み、取り返しのつかない不幸に導くことは、本意ではありません。
 どうかわたしから学んでいただきたい。わたしの説教はともかくとして、少なくともわたしという実例をよすがに、知識を得ることがいかに危険なことであるかを知り、人間にとって、本性が許す以上の大きな存在となろうという野心を抱くことより、生まれたまちが世界だと信じているほうがずっと幸福であることを、理解して欲しいのです。

「4」より

——シェリー『フランケンシュタイン』(光文社古典新訳文庫,2010年)96 – 98ページ


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