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『ポップ中毒者の手記(約10年分)』 – 日めくり文庫本【5月】

【5月17日】

 86年に、TWELVETREES PRESS(ブルース・ウェバーやデュアン・マイケルズを始め、趣味のいい写真集を趣味で出しているような西海岸の出版社)から出たデニス・ホッパーの写真集『OUT OF THE SIXTIES』を見た時の僕(56年生まれ)の衝撃ったらなかった。
 その写真集に写っている連中の豪華さ! 60年代のあらゆるジャンルのスターがプラネタリウムばりに勢揃いしているのだ! ちなみに、86年暮れにニューヨークのトニー・シャフラッツィ画廊で開かれた『OUT OF THE SIXTIES』の出版記念写真展のレセプションの時には、デイヴィッド・バーン(52年生まれ)やジム・ジャームッシュ(53年生まれ)といった今のスターたちがこぞってホッパーにサインを求めたという。
 『OUT OF THE SIXTIES』には、彼が61〜67年(25〜31歳)に撮った60年代的人物やシーンが満載されていて、主な内容は次のとおりである。

〈アート関係〉 アンディ・ウォーホルと彼のファクトリー、デイヴィッド・ホックニー、ジャスパー・ジョーンズ、ロバート・ラウシェンバーグ、ロイ・リキテンシュタイン……。
〈音楽関係〉 ブライアン・ジョーンズ、ジェームス・ブラウン、アイク&ティナ・ターナー、ザ・バース、ジェファーソン・エアプレイン、グレイトフル・デッド、フィル・スペクター。
〈その他〉 フラワー・チルドレンと握手するティモシー・リアリー、アレン・ギンズバーグ、バイカー、マーチン・ルーサー・キングの公民権運動(アラバマ州セルバからモンゴメリーに至る5日間に及ぶ行進)……。

「どこに行くにも、彼はカメラを持っていた。友人たちは彼を〝観光客〟と呼んでいた」(『DENNIS HOPPER 狂気からの帰還』)

 しかし、ホッパーの撮った60年代のスターやおいしいシーンの写真の数々は、60年代の熱狂の渦に舞い上がった写真ではなく、負けいくさを予見していたような寂しさに覆われている。当時、彼のニューヨークでの友人は、彼がいつもカメラを離さないので「観光客」と呼んだというが、そう、デニスの写真には、まさに「観光客」、「異人の視線」がある。特に、何気ない日常の風景を撮った写真においては、1924年にカナダで生まれ、55年からアメリカ中を旅行し、58年に写真『アメリカ人』を出版したロバート・フランクの「異人の視線」を彷彿とさせると思うのだが、いかがなものだろうか。

「1989 デニス・ホッパーとカウンター・カルチャー 先端的文化に対する優しい眼差し」より

——川勝正幸『ポップ中毒者の手記(約10年分)』(河出文庫,2013年)252 – 254ページ


1922年にマサチューセッツ州ローウェルでフランス系カナダ人の移民の家庭に生まれたジャック・ケルアックが『オン・ザ・ロード』にまとめたのは、47年から50年までのアメリカを横断した「異人の視線」ですよね。
アンディ・ウォーホルも「観光客」の人ですが、1928年にペンシルベニア州ピッツバーグでチョコの移民の家庭に生まれています。

ジャック・ケルアック『オン・ザ・ロード』【3月12日】

/三郎左

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