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『お前らの墓につばを吐いてやる』 – 日めくり文庫本【3月】

【3月10日】

序文

 フランス人とアメリカ人のいわゆる会合で、ジャン・ダリュアンがサリヴァンに出会ったのは一九四六年七月頃である。サリヴァンは彼に原稿を持ってきた。
 その間、サリヴァンがダリュアンに言うには、彼は赤道を越えたけれど、自分のことを白人という以上に黒人であると見なしているということだった。周知のように、毎年、何千もの(法律によってそのように認められた)「黒人」たちが人口調査のリストから消えて、反対側の陣営に移っている。黒人に対するサリヴァンのえり好みが、「善良な黒人たち」、つまり文学作品のなかで白人たちに親しげに背中を叩かれている連中に対する一種の軽蔑を彼に吹き込んだのだ。白人と同じように「無情な」黒人を想像できるし、出会うことさえできるべきであると彼は考えていた。サリヴァンがこの短い小説のなかで個人的に証明しようとしたのはまさにこのことであるし、版元のジャン・ダリュアンはある友人を介して知己を得ると、ただちにその小説の完全な出版権を獲得したのだった。すでにアメリカの出版社にコンタクトをとってはみたものの自国での出版の試みが虚しいものに終わることを思い知らされたばかりだったので、サリヴァンはなおさら原稿にフランスに置いていくことを躊躇しなかった。
 ここでは、著名なわれらがモラリストたちは、いくつかのページに対してそれらのいささかやり過ぎの……リアリズムを非難するだろう。これらのページとヘンリー・ミラーの物語との間の根本的な違いを強調することはわれわれには興味深いことだと思われる。ミラーはどんな場合もためらうことなく最も激しい語彙に訴えかける。反対にサリヴァンは、むき出しの語句を用いるよりも、いくつかの言い回しと構成をとおしてそれとなくほのめかそうと考えているように思われる。その点で彼はよりラテン的であるエロティックな伝統に近づいているのだろう。

——ボリス・ヴィアン『お前らの墓につばを吐いてやる』(河出文庫,2018年)25 – 26ページ


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