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『わたしは英国王に給仕した』 – 日めくり文庫本【3月】

【3月28日】

著者あとがき

 この文章は、激しい夏の陽射しのもとで執筆された。その陽射しはあまりにも強く、タイプライターは一分間に幾度となく止まったり、動きが鈍くなったりした。眩いばかりの白い紙の四角形をじっくり見ることなどできなかったので、自分の書いた文章を確認すらできなかった。つまり、わたしは陽光に酔いしれながら、自動筆記の手法で書いたのだ。太陽の光はあまりにも眩しく、わたしの目に入ったのはきらきらと光るタイプライターの輪郭だけで、ブリキのカバーが数時間も日に当たっていたせいか、タイプされたページは熱でキャリッジに巻きついていた。昨年起こった出来事でてんてこ舞いだったため、自分の母親の死ですら記録に残すことができずにいた。だから、これらの出来事は、文章をファーストテイクのまま残すようにわたしに求めるのだ。いつか時間と勇気を併せ持つことができたなら、何度も何度も文章を練り直し、ある種の古典になるまで手を加えることができるのではと、期待だけを抱かせるのだ——あるいは、イメージが第一に与える自然さを維持できるという前提のもと、ハサミを手にして、その瞬間に抱いた印象に応じて、時間が経ってもまだまだ新鮮だと思えるシーンだけを切り取っていく。もしわたしがこの世にいなくなったとしても、わたしの友人の誰かが同じことをやってくれればいい。わたしの文章から断片を切り抜き、ちょっとした短編や長い小説を作り上げてくれればいいのだ。同じ手順で!

——ボフミル・フラバル『わたしは英国王に給仕した』(河出文庫,2019年)298 – 299ページ


『海底の真珠』(1966年)、『厳重に監視された列車』(1966年)、『つながれたヒバリ』(1969年)、『剃髪式』(1980年)、『スイート・スイート・ビレッジ』(1985年)、『英国王給仕人に乾杯!』(2007年)。
イジー・メンツェル監督によるボフミル・フラバル原作の映画たちは、いずれも傑作です!

/三郎左

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