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#3 写真家・桑島智輝「あなたに映る私を写す」(2019.9.6&13)

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カミガキ談(自画どりのことではありませんBOYS)

次の人生ではカメラマンになりたいと思ってます。だってライターやイラストレーターは家でシコシコ孤独だし、仕事の手離れ悪いし。それもできればグラビアカメラマン! いつも現場で楽しそうだし、絶対モテるし、かわいい子にたまんない視線向けられて、レンズを挟んだ疑似恋愛で「いいね~」とか「かわいいね~」とか「ずっきゅんきちゃうね~」とか「思い切ってソレぱーっと取っちゃおうか~」とか言っちゃったりして!

ということで今回の会議相手の桑島智輝さん。AKB、乃木坂、欅坂、池田エライザ、、、で奥さん安達祐実。うーむ、最高じゃないですか。

登場した桑島さん、金髪、長身、イケメン。華がある。そうなんだよなー、売れっ子カメラマンって華あるんだよなー。おまけに弁舌もさわやか。聞けばもともと俳優志望だったとか。

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「もともと竹中直人になりたくて(笑)。竹中直人さんにあこがれていたんです」

なぜか入ったムサビのデザイン科。だけど在学中はずっと芝居。目立ちたがり屋の引っ込み思案。練習はいいけど本番はダメ。んー、こりゃダメだ。

ということで高校時代から写真は撮っていたので「これならいけるかも」。

そんなに簡単にプロカメラマンになれるもんですか?

「師匠の鎌田拳太郎がファッションの人だったので自分もファッションの作品撮りをして、ファッション雑誌に売り込みに行ったんです。だけど相手にされなくて。で、そのとき所属してた事務所の社長から『君、ファッション向いてないよ』って言われて。ファッションって洋服を撮らないといけないので、『引き』『全身』が多くなるんです。でも僕は撮影してるうちにどんどん被写体に寄っていっちゃって。それって相手の表情を撮りに行ってるってことで、『だったらポートレートの方がいいんじゃない?』って」

そこで向かったアイドル誌。AKB旋風に乗って仕事は順調に増えていく。気付けば水着の女の子ばかり撮っていた。では桑島流のグラビア撮影術は?

「ポートレートを撮るとき誰が主役かっていったら本人でしかないので、まずは本人の出方をうかがいますね。こっちのやりたいことを伝えながら、向こうの感覚を感じつつ、その距離感を計りながら、『こういうのもできるかな?』と思って小石を投げてみるんです。たとえば『飛んでみてください』と言ってみる。とりあえず飛んでもらう。飛ぶと言っても人それぞれ飛び方が違うから、そこでその人らしさがちょっと出る。ヘンな飛び方をしたら、それがその人。それをずっと繰り返す感じでです。石を投げてどんな波紋が出るか見て、『この人、こういうの向いてるんだな』『こういうのはダメなんだな』っていうのをつかみながら表情を引っ張っていくっていう」

あ、現場は「いいねいいね~!」じゃないんだ(偏見)。そんな微妙な探り合いから、こうした表情を引き出していくんですね。

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ここでひとつ基本的アドバイスを求ム。女の子をかわいく撮るコツってありますか?

「結局、人を撮るってどういうことか考えると自分を撮るってことで。被写体って鏡なんです。自分が気負っていけば向こうも気負うし、こっちがフランクに行けば向こうもフランクに来てくれる。こっちが肩の力を抜いて、リラックスしたムードでいけば向こうもそういう感じで来てくれるというのは、これまでの経験で感じましたね。こっちが照れてると向こうも照れる。こっちが真剣に『撮らせてほしい』と伝えれば向こうも真剣に臨んでくれる。だからまずは自分の照れ隠しを除くことだと思いますよ」

金言出ました「人を撮るって自分を撮ること」「被写体は鏡」。これ、あとでも出るので憶えといてください。ではこれまで撮影した中で一番フォトジェニックだった人は?

「フォトジェニックを感じた究極の被写体は……やっぱり安達さんになってしまいますね。そこからのはじまりってところもありますんで」

ここで来ますか、夫婦の話。では後半戦の前に桑島さんが今、大好きでオッカケ撮影もしてるこのバンドの曲を聴いてください。カモンNOT WONK!

女優・安達祐実と写真家・桑島智輝。2人は2013年『私生活』という写真集を一緒に制作し、翌年11月に結婚する。そしてこのたび2冊目の写真集『我我(がが)』を発表――つまり今作は結婚以降の2人の日々が写されたものになる。

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「最初は仕事で撮影してたんです。そして写真集発売。写真集ができる直前に付き合いはじめて、次の年に結婚しました。で、写真集が出た後もプライベートでずっと撮ってたんです。それは単純に楽しかったからというのもあるし、写真家として『次の写真集に使えるかもしれない』という打算もあって。だからそのころは『安達祐実がこういうことをやってたら面白いだろうな』という計算の入った写真を撮ってました。

だけどずーっと撮っていくと、そういう写真って肩肘張ってるし、窮屈な感じがして。撮り続ければ撮り続けるほど自分の写真が変わっていったんです。それは彼女と僕の関係性が変わっていったってことでもあって。で、出産の後になるともう打算なんてなく、アッって思った瞬間、無意識的に写真を撮る感じにチェンジして。今はまさに呼吸をするように撮ってますね」

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ここからの写真は写真集『我我』から。呼吸をするように切り取られた夫婦のくらし。当然それは生々しい。ではなぜわざわざそれを写すのか。

「かなり特殊な夫婦だと思うんですけど、その行為は一体何なんだって考えると、結局人間はいつか死んじゃうから……。肉体が滅びることが第一の死だとすると、第二の死って記憶からなくなっていくことだと思うんです。そこに対する抵抗というか、昔こういう夫婦がいたんだよってことが少しでも残ればいいなと思って……」

残すための写真。記録するための写真。だから夫婦の写真はデジタルでは撮らないという。ちゃんとプリントして、サービス判を積み重ねていく。確かな「モノ」として現実の中に遺していく。

今回写真集を編むにあたって、3年間ほぼ毎日撮ってきた18,500枚から135枚をセレクトした。それは特別な経験だったという。

「自分の人生を客観的に見てる感じがあって……出産を機に僕の写真が全然変わるんです。僕にとっては初めての出産の経験だったので、出産直前にはシリアスさ、険悪さが表れて。それが子供が生まれたことによりパカーンと変わって……『俺、この期間、こういう人生だったんだ』と(笑)。写真集のちょうどど真ん中が出産なんですけど、そういう意味で父親としての僕のビファア・アフターが出てるような気はします」

「逆に安達さんは懐が広いというか、全然変わらないんです。もちろん関係性は変わるんだけどカメラに対する立ち方は変わらなくて。だから1冊を通して見ると、彼女が全然変わってない分、僕が成長させてもらっているのがよくわかる――結局彼女を撮っていながら自分なんだ、写真ってやっぱり鏡なんだって思いましたね」

これは安達祐実の写真なのか、桑島智輝の写真なのか。たぶんどっちも写っていて、それが写真ってものなのだろう。

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そして本日のクライマックス。

「安達さんの魅力の源は何だろうな……それがいいか悪いかわからないし、女優という仕事のせいかもしれないけど、彼女は『がらんどう』なんです。だからすごく魅力的なのかもしれませんね。たとえば仕事で安達さんを撮るときって、彼女は何もしないんです。たいがいの人はこっちがカメラを構えると、自分の必殺技を出してくるんです。でも安達さんは本当に何もやらない(笑)。だから被写体としてはすごく難しい人だと思います。こっちが『こういうふうに撮りたい』っていうのが明確にないと返ってこない人だから。こっちから指示を出して『役』を与えてあげないと……それが女優の仕事だし、ぱっと見、何考えてるかわからないのが彼女の魅力かもしれませんね」

妻を「がらんどう」と言える感覚。その「がらんどう」と一緒に暮らす感覚。その「がらんどう」に魅了され、毎日のように写真に記録していく感覚……これはすごい。しかしこういう夫婦の形もあるのだ。

「夫婦でみんな勘違いしてるのが、結婚はゴールじゃなくてスタートってこと。夫婦生活は本当に大変だから! 夫婦ごとにいろいろあるから! それでも幸せだよっていう(笑)」

「僕にとっては彼女が棺桶に入った状態の写真を撮った瞬間が完結なんです。だから彼女よりちょっとだけ長生きするのが希望ですけど、彼女がいない状態であと10年とか生きなきゃいけないのはキツイから、次の日くらいに死ねればいいかな……(笑)。うん、今や写真がないと成立しない夫婦だと思いますよ」

これを倒錯した愛と見るか、究極の愛と見るか。しびれる関係性。まさしくミューズ。しかし運命の女=ファムファタルに出会えることは男にとって幸せなのか否か?……これはすごいことになってますよ。

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最後にクリエイター志望のみなさんにメッセージを送ってもらいました。

「写真でもなんでもいいんですけど、やり続けないとわからないんです。写真ならとにかくいっぱい撮る。四の五の言わず撮ることが大事。たとえば写真がヘタクソでもそれを10年続けたら絶対何かになるんです。だから本当に好きだったら、挫折せず続けた方がいいと思います」

続けることで「何か」になれる。安達さんとの私写真関係も、夫婦関係も、続けることで新しい「何か」が生まれる……どうやら僕らも立会人としてすでに巻き込まれている様子。10年後、20年後、桑島さんの写真がどう変わっているのか、ぜひまたブンクリに遊びに来てくださいね!

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収録2019.8.21@HFM

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