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ディオニュソスの冬

 今年頭に書いた話です。よかったら。

 

 どこのとも知らないラベルが貼られた深緑の瓶が、ごろりと床に落ちた。豪奢なベルベットのソファから真っ白な腕が垂れる。

「みんなくるっちゃえばいいのにね」

 そう言って彫刻はにやりと笑った。

 

 第一章

 

 この土地の冬はとても寒い。雪なしの日はあり得ない。毎朝太陽が昇ると部屋の電気よりも外が明るいほど、白に覆われた世界だ。

 十二月の半ば、永代(ながしろ)友(ゆう)はいつも通り、朝七時半前に家を出て、最寄りのバス停まで徒歩で向かった。学ランの上にダウンジャケットを着て、底が厚めのスニーカーを履いている。この厚さでも夜のうちに積もった雪には到底勝てない。嵩んだ雪を踏むせいで、制服のスラックスにそれがついて、溶けて水っぽい感触になるのが友は好かなかった。そんなことを言っても雪が全くない道はこの街に存在しないので、諦めて毎日登校している。

 高校まではバス一本では行けず、一旦市の中央まで出て、そこで乗り換えをしなければならない。気温が零度を下回るのがざらなこの土地では、バスの乗り降りでさえ億劫だ。一度乗っていたバスを降り、高校の目の前に止まる線に乗るために乗り換えの停留所に向かうと、同じ高校の制服を着た生徒たちが寒さに体を震わせながら次の便を待っていた。

 イヤホンで聞いていた音楽がプレイリストの最後の曲で止まってしまったので、次の曲を選定しようと携帯電話をポケットから出したところで、ぼんやりした音が耳元で聞こえた。

「おはよう」

 同じクラスのハルだった。小学校からの同級生で、友とは長い付き合いである。同じ地域から通っているが、実家から市内までのバス停が違うので、こうして街中で会って一緒に登校することが多い。気温のせいで真っ赤になった耳が髪から透けていて、見た目にも寒そうだ。

「おはよう」

 イヤホンをケースにしまうために手を外に出すだけでも、指先から凍るような冷たさだ。出来ればあと一曲聴きたい気持ちだったので、もう少し後にハルが来ていればと友は思った。

「バスまだこない?」

「あともうちょっとじゃない」

 ハルもダウンジャケットに手を突っ込み、ぴょんぴょん跳ねるようにして寒さを紛らわせている。停留所に貼られている時刻表を見れば次のバスの時間はすぐわかるが、もししばらく待たないといけないと知った時には絶望でしかないので、あえて見ることはしなかった。

「もうすぐ学校も終わりだしさ、十二月全部休みにしてくれていいのに」

 あと二週間も立たないうちに、学校は冬休みへと入る。夏と違って休み中の講習もないので、なんとなく学校全体が休暇気分になっていた。もちろん受験組の三年生はそうは行かないだろうが、学業に深く関心のない友やハルのような二年生はぼんやり一日が過ぎるのを待っているだけだ。

 ようやく来たバスの後ろに潜り込み、昨日見たアニメの話や最近買った漫画の話をしていればすぐに学校に到着する。暖房がきいた車内から出たくないという気持ちをなんとか抑えて、二人はまた雪一面の歩道に出た。

 校舎の玄関でスニーカーについた雪をはらう時、スラックスのひやりとした冷たさに毎回嫌気がさす。早くヒーターの近くで乾かしたい。冬場はそのためだけに、教室の左前方に席を取っていた。どの授業にもなんら関心は無かったが、教師に近い場所に座る緊張感と、濡れたスラックスを乾かすことが出来る安心感とを天秤にかけた結果、友は前者を取ることにした。もちろん前に座りたい生徒を誰も否定したりしないので、冬場の席替えの際は自ら前方の席に立候補して座っている。一番前の列は皆が思うより穴場で、授業をしている教師からは意外と近くの生徒が見えづらい。ちょっと寝ているくらいでは授業中に先生に気づかれないところも気に入っている理由の一つだった。席を後ろに取りたがるやつは何もわかっていない。

 友の教室は学校の二階に位置している。ハルと共に四組のクラスに入っていった。半分ぐらいはすでに登校済みで、気だるげに一日の始まりを待っている。友もダウンジャケットと鞄をロッカーにしまい、ヒーター横の自分の席に座ってスラックスの裾を温め始めた。机につっぷしながら後ろをちらとみると、ハルは別のクラスメイトとまた昨日のアニメの話をしているので、好都合と思ってイヤホンを耳にはめた。皆が使っているメーカーのワイヤレス式だが、音も悪くないし耳も痛くならないので気に入っている。これを忘れて家を出たら、その日一日は機嫌が悪かった。

 今日も一日何もなく終わればいい。友はイヤホンから流れる音楽を聴きながら、心の中で何となく念じた。友は、日々起こる気持ちの乱れが嫌いだった。例えば、父親が病気をして入院した、母親が深夜に救急車で運ばれた、友人の両親が離婚する、あいつの兄ちゃん、引きこもりになったらしいよ。そういった自分のことではないのに、何故か心を乱してくるような他人の出来事が友は好かなかった。もちろん自分のことなら尚更だ。なるべく毎日何も起こらず、平常心で過ごしたい。びっくりするようなことや普通じゃないことは気持ちを不安定にするので嫌だった。その点イヤホンをしていればそういった会話は一切耳に入ってこない。これも音楽をよく聞く理由の一つだ。

 いつのまにか朝のホームルームの時間になり、皆空気を読んで席に着き始めたが、担任が時間通りに来ない。クラスメイトが各々近くの生徒と話して盛り上がっている中、友は一人イヤホンごしに話声を感じながら音楽を聴き続けていた。

「永代、きた」

 友の背中を叩いて起こしてくれたのは横の席の西野だった。ありがとう、と声にならない声を出しながらイヤホンをとると、目の前の教壇に担任と、その横に初めて見る生徒の姿があった。

 肌が抜けるように白かった。血色が悪く、具合が悪そうにも見えた。青光りするような黒髪で、新しい学ランのジャケットよりも深い色をしている。校則ぎりぎりだろう長い前髪の向こうに見える顔はこちらを不安にさせるほど均整がとれた、精確な作りだった。制服を着ているのも一瞬違和感があるような風貌なのだが、立派な青年のようにもあどけない少年のようにも見えるので、結果学ランはその生徒の見た目を更に引き立てていた。少年であるならば大人びて見えるように、青年であれば子供心を忘れていないかのように。一見してこの高校にはいない、特異な人種に見えた。

「今日からこのクラスに入るミヤタユキだ。急な転校になったが皆よろしく」

 担任の至極簡単な説明の横で、ミヤタは全く動じないままぼんやり立っていた。立っているだけで絵のような風貌だった。彫りの深い西洋美ともとれるし、歌舞伎役者のような和風の趣もある。とにかくこの街では見たことがないような、格好いいという単語では形容しきれない美しさだ。今まで同性の顔をみて美しいと思ったことがなかった友は、自分の中からその単語が出てきたことにちょっとした違和感を覚えた。クラスメイトの女子が携帯電話で若手俳優の顔写真を見せてくるとき、確かに端正な顔立ちでさぞ人気なのだろうと思う。その時の感情とは違う、美しすぎて受け入れがたいような、そんな奇妙さがミヤタの顔にはあった。

 空いている席がないので空き教室から机といすを持ってきて、教室の中間あたりにミヤタの席は作られた。新しい転校生の加入は、ほんの数分で終了した。

 一時間目は担任が受け持つ英語の授業だった。教科書を机から取り出すよう指示され、そのまま授業はスタートした。

 

「腹減った」

 ぼうっとして時間を過ごしていると、一日などすぐに過ぎ去っていく。時間の体感を早く進ませたいのであれば何かに集中するか、一切集中せずに何も考えないかのどちらかに限る。友は面白いと感じる話の時だけ教師に耳を傾けて、後は全く何も考えずに授業を受けることで一日の大半を過ごしていた。得意なことも不得意なことも取り立ててないので、これが一番生きやすい。こうしているといつの間にか昼食の時間になるし、いつの間にか下校の時間になるのだ。今日もハルが気付かないうちに自分の目の前に座り、昼の弁当を広げている。

「友、明日何すんの。映画行かねえ?」

「何観んの」

 男子学生ならみんな見ている、あるアニメの劇場版を指定された。漫画を読んでいるのでストーリーを把握しているとはいえ、映画館のスクリーンであのシーンを見たら迫力があるだろう。クラスの男子の半分はすでに週末に機会を作って見に行ったようで、しきりに友にも勧めてきていた。自分も上映期間が終わる前に見に行かなければと思っていたが、もともと出不精なのに連日の積雪が加担して、家から出るのが億劫になっていた。

 この週末を逃したらもう次は冬休みの頭だ。ハルも年末年始は家から出づらくなるだろう。正月は家族で過ごすものという文化はどこの家も同じだった。

「いいね、行こう」

「やった、ようやく見れんじゃん。これでお前がまた断ったらもう勝手に見に行こうって決めてた」

 そういってハルはけらけらと笑った。それでもよかったけど、と冗談交じりに返すと、そんな言い方ないだろ、とまた笑う。ハルは昔から変わらず、明るくて陽気なところが良いところだった。どちらかというと静かに居ることを好む友とは違い、常に無邪気で楽しそうだった。運動神経が抜群にいいわけでもなく、勉強がすごくできるわけでもないが、人当たりがよくコミュニケーションが上手で、とにかく人に嫌われない存在なのだ。ハルのことを好いている女子も今まで何人か見てきたし、ハルについて聞かれることもあった。そのたびにどれかと付き合ってやったらいいのにと思ったりもしたが、そういう遊び人気質はないらしかった。小さいころからの腐れ縁とはいえ、部活にも入らず、学校生活の大半を友と一緒にいるハルのことを不思議に思った時期もあったが、一緒にいる時間が長すぎてそんな考察もいつのまにかしなくなった。

「喉かわいた。友、自販機行こうや」

「ハル、うちの分も買ってきてよ」

「めんど」

 さっき友を起こした隣の西野が、ハルにちょっかいをかけている。こうして話しかけられやすいタイプなのだ。

「よろしく」

 西野はハルに百円玉をぽんと投げ、また女子の会話の中に戻っていった。

 椅子から立ち上がって教室を出ようとした時、何の気なしに転校生の方を見た。ミヤタは周辺に席がある生徒たちと一緒に昼食をとっているようだった。人は思った以上に他人に寛容で優しい生き物だなと、何となく思う。誰かが何かを言ったその言葉に対して皆で笑っている姿を見て、人って面白いなと友は感心した。さっきまで全く知らない人だったのに、もう食べ物を囲んで話をして、笑いあうまでになっている。それでもミヤタのあの見た目のせいか、周りとミヤタの間で、一人だけ画面から浮いているような、なじみ切らない違和感のようなものがあった。言ってみればプログラムのバグのようなものだろうか。異質物の出現で正常だったものが変化してしまうようなそんなイメージで、不思議な光景だと思いながらハルの後ろを追った。

「転校生とかこの時期来るんだな。親、転勤族かな」

 教室のドアを閉めてすぐ、ハルは友の顔を振り返った。

「かもね」

 ハルはまだミヤタの見た目には言及しなかった。新しく出会った人の顔を覚えるのは簡単なことではないし、更にミヤタのあの顔は周りになじまないほど異様に美しい。ミヤタの見た目について何か感じたのは自分だけだったのかと思いながら、階段を下りていった。

 自動販売機は一階の下駄箱前に一台だけあって、昼時は毎日列が出来る。高校生が教師の前で飲むことを許されている少ない種類の中から適当に飲み物を購入し、また教室に戻った。クラスのランチタイムはもう終了したようで、各々どこかに出かけて居なかったりする。教室に残る連中は、次の授業の自習をしていたり、自分の机で昼寝をしていたり、こちらも自由だ。なんの緊張感も無いだらけたこの時間に、友はぼんやり音楽を聴くのが好きだった。といってもハルが目の前に座って何かをしきりに話しかけるので、イヤホンは片耳だけしかしていない。この高校生活で身に着けた要らない特技の一つが、音楽を聴きながら人の話を聞くことだった。何となく近くにいたクラスメイトの男子も集まり、結局五人くらいでだらだらとしゃべっていると、さっきまで居なかったミヤタがまた別の数人と一緒に教室に帰ってきた。どうやら購買に行って帰ってきたらしく、弁当では満足できない男子たちが追加のパンを抱えている中で、ミヤタはかなり浮いて見えた。一瞬ミヤタと目があったが、目線がすぐにそれた。人間じゃないものに見たような奇妙な感触がして一瞬ぞっとしたが、綺麗なものに見つめられたことがない友は、美しさとはこういうものなのだろうと何となく腑に落とした。

 

 午後の授業も終わり下校時間になると、ハルが机まできて、帰ろうぜと言ってくる。漫画の新刊が出たから本屋に寄ろうと言って、明日見る約束をした映画の、原作の名前を言った。こういうちょっとした楽しみを提案するのが好きなタイプなのだ。クラスメイトに挨拶をして、二人は学校の外へ出た。

 帰り道も市の中央までのバスに乗って帰る。冬場なら二十分ほどバスに揺られれば、街中に着く。

 市の駅に併設するショッピングモールの中に書店があるので、二人でそこに行くことにした。お目当ての漫画を買い、一階のフードコートで各々好きなものを食べる。これが二人の習慣だった。

「冬休みっていっても暇だよな。友は何するの」

「いつも通り。特に何もない」

「だよな」

 年末年始の時間の過ぎ方は他の時期とは全く違う。体はだらけているのに時間だけ二倍速になったような、体と心のバランスが取れていない不思議な感覚に陥る。親戚に挨拶に行ったり神社にお参りに行ったり、何かと忙しいような気もするのに、思い返せば家の中でソファから全く動いていない印象の方が強い。友が音楽鑑賞と併せて趣味としている読書もたっぷりできる時間があるのに、冬休みが終わってみれば一冊も読み終えていないなんていうこともざらだった。

「たまにはスノボでも行くか?」

 漫画を片手に、底に溶けたアイスクリームの名残りをすくい取りながらハルが聞く。フードコートはモールの玄関口に近く、外の冷たい空気が自動ドアの隙間から絶えず入ってくるのに、ハルはよく丸いアイスクリームの二段重ねを好んで食べる。どんなに外が寒くても室内で食べるアイスは格別なのだという。

「いいけど、スキー場までが遠い」

「兄ちゃんに車出してもらえるか聞いてみるよ。いつなら行ける?」

「いつでもいい」

 雪国生まれであれば学校の授業にスキー学習があるので、基本的なウィンタースポーツは出来る人が多い。友もハルも例にもれず、格好いいからという理由だけでスキーからスノーボードに移行した男子学生だった。

「ハルの兄ちゃん元気?」

「元気。なんも変わんない。大学楽しそうで羨ましい」

 ハルをコピーしてペーストしたような見た目のその兄には、よく小さいころから遊んでもらっていた。大学に入ってからは家を出ているが、帰省した時にタイミングが合えば友たちを車に乗せてどこかに連れていってくれる、面倒見の良い青年だ。

「俺らもそろそろ大学のこととか考えなきゃだよな」

 ハルの意外にまじめな言葉に、友はぎょっとした。勉強に対して何の興味もなさそうに見えた親友が現実を突き付けてくる。冬休みが終われば本格的に担任が聞いてくるであろう進路のことについては、今の友にとっては正直どうでもよかった。どんな大学に入ろうと、むしろ大学に行かない選択肢を取ろうと、毎日が何事もなく過ごせるのであれば何でもよい。一方のハルは大学に行くことを前提に今話をしている。大学生活を満遍なく謳歌している兄に触発されたのだろうか。

「ハルはどこの大学に行きたいの」

「このままここにいてもなんもないし、東京とか行ってみたいよな。友は」

「何も考えてない」

ハルに嘘をついても意味がないと知っていたので、思ったことをそのまま伝えた。ハルは漫画からぱっと顔を上げて、友の顔を見た。

「お前らしいわ」

 そう言って笑い、また漫画に顔を落とした。

 

 結局土曜日はハルと映画を見に行き、そのまま友の家でアニメを見てだらだらと過ごした。友の母が夜ご飯を振る舞い、結局夜遅くになったのでそのまま泊まって帰った。

 明日からの学校生活も憂鬱だ。また氷点下の雪道を歩いて学校に通うのだ。これを何回も何回も繰り返して、友たちはだんだん大人になってきた。明日も明後日もずっと同じだと思って生きている。なのにいつかはハルも受験勉強を始めるかもしれない。友も進路を決めるかもしれない。そうなったら毎週末こんな風には遊べなくなるだろう。この生活がなるべく崩れなければいいのにと、友は思うことしかできなかった。

 

 冬休みに突入すると、友が想像していた通り、なかなか家から出て遊ぶことが難しくなった。スノーボードに誘ったのはハルの方だったが、年末って何か家から出づらいよな、と携帯電話にメッセージが来ていた。

 確かに冬休みに入った瞬間から、やれ家の掃除を手伝え、やれ洗濯物を干せと、友の母はあれこれと用を言いつけた。断っても結局やることはないので、可もなく不可もないクオリティで雑用をこなしていく。父はまだ仕事納めには日にちがあるので家にはいないし、母も年末の大掃除や買い出しで忙しい。ハルとは連絡を取り合っていたが、あちらはあちらで家の用が多いようだった。

 休みが始まってすぐは家にいて母のご機嫌取りをしていたが、それにも友は飽きてしまった。休み前から読んでいた小説が終わってしまったので余りにも手持ち無沙汰になり、書店にいくことを決めて母に報告すると、あれこれと追加で食材のお使いも頼まれてしまう。どうせだらだらしているだけなんだから少しは働いてよと、母からの定型文が飛ぶ。

 何も言わずに家から出ればよかったと後悔しながらスニーカーを履いた。制服に合わないので普段は履かないが、なかなか自分で気に入って購入したデザインのものをあえて選んだ。誰かと会う予定は一切ないが、休みに入った後の街中には同じ学校の生徒たちがうろついていることが多い。親と一緒だったり友人と居たりと形態はばらばらだが、制服を着ていない時に会うのは何故か気恥ずかしい。普段話もしないクラスメイトに、私服がダサいと思われることだけは避けたかった。

 いつも通り街中に向かうバスに乗り、駅前の停留所で降りた。帰省も徐々に始まっているからか、人通りはいつもより多い。学生の姿もある。今日はショッピングモールの小さな書店ではなく、市内で一番大きな本屋に向かうため、駅の西側に足を進めた。広い一階建ての敷地すべてが本でいっぱいのその店は、医療や哲学などの参考書などもあり、普段見ない本に出会えるので友は好きだった。その書店に行くたびに、自分が普段興味を示さないジャンルのコーナーをあえて見て回る。何となく購入して面白かった時、さっと視界が広くなる感覚が好きだからだ。

 バスの停留所から、最低でも二十分ほど歩かなければいけない場所にその書店はある。北国の二十分は普通のそれとはまったく違う。降る雪が頬に当たり、頭や肩に徐々に溜まっていく。凍てつく冷たさが靴の裏を通り越して足裏に浸透し、指の感覚がだんだんとなくなっていく。車の通りに面した道を歩いているので、車道からの泥水が容赦なく歩道に跳ね返る。あんなに綺麗な白だったのが嘘のように、濁った灰色の雪水からは、澄んだ空気と汚れたオイルのにおいがする。格好つけて気に入っているスニーカーを履いてきたのが間違いだったかと友は悔やんだ。

 書店までの道のりはまだまだ遠いので、友はいつも通りイヤホンを耳にさした。本当は家を出る時につけたかったのがまさかの充電切れで、泣く泣くバスに乗っている時は充電をしていたのだ。気温で冷たくなった金属が耳に当たって余計寒く感じるが、友は基本的に無音で外を歩くことはしなかった。車の通る音や人の話し声が、聞いてもないのに勝手に入ってくるのがあまり好きではない。なるべく早く歩けるようにテンポの速い曲を纏めたプレイリストを選択し、携帯電話をポケットにしまう。携帯電話をいちいち操作しなくても自由に音楽の選定が出来るようになればいいのに、誰かにもっと便利なイヤホンを開発してほしいと思いながら、歩みを進める。

 歩道をざくざくと進んでいると、十字路の左側に人影を発見した。降雪があったので少し近づかないとわからなかったが、その顔は転校生のミヤタのものだった。何故か異様に見えたのはミヤタの持つ独特の雰囲気のせいだった。

 冬休み前までと比べて、なんだか随分髪の毛が伸びているように見えた。目の上をかすっていた前髪がこめかみまで伸びて、襟足も肩につきそうなぐらいなびいていた。初めて見る私服姿だったが、随分洗練されて見えた。グレーのタートルネックにブラックのロングコートを重ね、スリムなスラックスを履いている。足元は滑らかな革のブーツだ。ミヤタの体型に一寸と無駄のない、彼のためにオーダーメイドしたような洋服だった。

 気味が悪いほど白かった肌色はそのままで、雪のような白さとはまさにこのことだった。タートルネックから若干見えた首筋は、こちらがぞわりとするような細さだった。ただ細いというわけではなく、まるで彫刻刀で丹念に掘られた大理石を彷彿とさせた。

 学校にいる時は特に気にもしていなかったのだが、こうして俯瞰してみると華奢なのに男性らしい体躯だった。身長もあり肩幅もあるが、所々折れてしまいそうな細さがある。こんな田舎には似つかわしくない見た目で、友は本人と風景の間のアンバランスさに違和感を覚えていた。

 ミヤタは友と反対方向の道を進んでおり、ちょうど友から見て左折していくところだったので、こちらには気づいていないようだった。雪道をまっすぐ進んでいくミヤタの後ろ姿は、どう見ても異次元のもので、友はその後ろ姿を何となく立ち止まって眺めていた。

 ミヤタを見ると、実際に自分の目で見ていても、写真や映画を見ているような、自分が体験したことがないものを見ているような気持になる。何か一枚フィルターを通してみているような、非現実感が急に訪れる。学校にいたときに感じた異質な空気を外でも感じることになり、友はきゅっと冷たい空気を吸い上げた。

 それから書店までの間、友はミヤタについて考えていた。まだ二週間ほどしか同じクラスで過ごしたことがないが、ミヤタの異常さは友には明らかだった。グループワークで同じ班になったりする程度の付き合いだが、まだまだ幼さが残るクラスメイトの中で、ミヤタの放つ雰囲気は異彩だった。普段は言葉が少ないイメージだが、ミヤタの持つそれが全てを語るような雰囲気なのだ。それなのにクラスメイトは思った以上に騒いでいないことにも驚いていた。特に女子たちが彼に対してあからさまな好意を示すと思っていたが、想像に反しておとなしかった。ミヤタをクラスメイトとして皆が認識して、馴染んできたころには全てがひっくり返るだろう。そんな可能性を年明けに見出しながら、友は書店にたどり着いた。

 まず、芯まで冷えた体を温めるために、友は書店に併設されているカフェでブラックコーヒーを購入した。一気に飲み干し、カップをゴミ箱に捨てる。指をぎゅっとストレッチさせて、店内の徘徊を始めた。

 面白そうな本に出会うためには根気と体力が要る場合が多い。これだけ広い規模であれば尚更だ。興味をそそられる単語や写真が載った本を逃さないよう、友は注意深く歩き始めた。

 全然興味のわかない旅行や手芸のコーナーも何となくぐるりと一周する。好きなジャンルのコーナーは体力がなくなっても楽しめるのであとに回す。頭を使いながら店内を巡るこの行為が友はとても好きだった。ハルに言わせれば読書は真面目すぎる趣味だが、そんなこともないと友は思っている。本の中では残酷なことも卑猥なことも、馬鹿馬鹿しくて笑えることも全て現実のように起こるのだ。真面目という一言だけでは到底片付かない。

 書店ツアーの中盤に差し掛かったころ、友は芸術のコーナーにたどり着いた。『アート』という単語をよくみかける書棚が増えてふと立ち止まる。

 アートに関しては友の母が博識だ。昔絵を習っていて美大を目指していたが、描くことの才能はないと感じ、鑑賞に力を入れるようになったという。今ではもう全く行かなくなってしまった家族旅行を友が幼いころはよくしていたようだが、旅行先にある美術館には必ず訪れて、画集やポストカードを記念に買って帰るため、家には自然と絵が多くなっていった。友に旅行中の美術館の記憶が無いのは、母が一人で集中したいからと友を父に預けて行ってしまったからで、その間は仕方なく男二人で観光名所を巡っていたらしい。おぼろげな思い出の中に父の方がより多く存在しているのはそれが理由だ。

 今まで友自身から興味を示して画集を見たことがなかったが、今日は何か特別気持ちが働いて、アート関連の書籍に手を伸ばしてみた。と言っても知識がほぼないに等しいので、誰か特定のアーティストの本ではなく、「初めての」「わかりやすい」といった単語が表紙にある、初心者向けと思われる本を手に取り、ぱらぱらとめくってみた。

 絵の写真の横に小さく文章が添えられており、どういう画家がどういう経緯でその絵を描いたのかが大まかにわかるレイアウトになっている。他の本もめくってみたが、共通して似たようなページが多かった。その中でも一番わかりやすそうな本を選んで、更にページを進めていく。

 大方絵の才能がない友が見れば上手いと思えるものばかりだが、立体感のない絵や、書きなぐったような絵など、理解しがたいものも多い。母はこのうちのどれが好きなのだったかと家のあちこちに飾られたポストカードを思い出そうとしているうちに、なんだか絵に既視感を感じるようになった。

 初めは家で見た絵をこの本でも見ているのだろうと思って見過ごしていたが、どうやらそうではなさそうだ。見たことがないのに、見た気がするような絵。それは共通して男性の肖像画だった。

 もう少しページを繰ると壺や建築などの三次元の作品があった。思いのほか身近にアートは存在します、という題名の次に、公園の遊具や公共施設の外装の写真が並ぶ。そういった視点で公園を見たことがなかったな、と半ば感心して次々とページをめくると、彫刻の写真が現れた。

 全裸に植物か何かでできた冠だけの装いで、成人男性が立っている彫刻だった。かなり古いものなのか、その作品の表面は真っ白ではなく黄色みがかっている。彫刻は真っ白の卵のような石をイメージしていたので、意外性を感じた。男性の片手は椀のようなものを持っていて、それをこちらにくれようとしているのか、それとも自分が今まさに何かを飲もうとしているのかは見た目だけにはよくわからなかった。黒目がないその瞳に生気はないが、頑丈そうな男性らしい体躯のお陰で生きている人間より威厳があるように見えた。そしてこの出で立ちは人間なのかそれ以外なのか、友にはわからなかった。

 写真の横に、手元と顔の拡大図が載っていた。あの硬い石を彫って作ったとは到底思えない肌の滑らかさだ。拡大された顔には依然生気は宿っていなかったが、人間らしからぬものだけが持つ神秘的な面持ちがそこにはあった。

 ―――ミヤタ。

 唐突にその名を思い出し、友は眼をぎゅっと閉じた。

 どこかで見たことがあるって、ついさっきじゃないか。

 目をあけると、ミヤタの顔が彫刻の顔と重なって揺れる。先ほど雪の中で見た横顔と同じ、尋常な人間らしからぬ姿。彫刻の方は体躯に筋肉の厚みを帯びていてミヤタより雄々しいし、そもそも顔自体が似ているわけでは無いのに、表情の一切が相手に透けないように作りこまれた、丁寧に美しく仕上げられた顔つきはまさにミヤタのものだった。

 彫刻刀がミヤタの顔に入るところを何故か想像して、とっさに友は本を閉じた。これ以上この二人の似かよりについて考えるのはやめよう。ただの一クラスメイトに対して自分の感情が気持ち悪い。そう判断して、友は美術の区画を逃げるように後にした。

 その後友は結局、面白そうな本を探す気にもなれず、そのまま退店してスーパーにだけ寄り、家に帰ることとなった。家に帰っても部屋のどこかしらに飾ってあるポストカードや画集の表紙が妙に気になって、気持ちが落ち着かないので部屋に入って音楽を聴いた。好きなスローテンポの音楽を聴くと何となく心が落ち着いてきて、そのままベッドの上でうたた寝をしてしまった。夢の中での出来事は、起きたときには既に忘れてしまっていた。

 

 冬休み開けの登校初日は、年末より更に気温が低く体が凍りそうな朝だった。いつも通りの通学路でバスを乗り換えすると、既に停留所にハルがいた。ハルとは結局年末に一度、家族同士大型スーパーの中ですれ違ったきりで、スノーボードにも行かなかった。

「久しぶり」

「久しぶりだけど、休み短すぎ」

 しばらくぶりに会ったハルは、前に見た時よりさらに明るく髪を染めていた。今日年始最初の頭髪検査があることは知っているのだろうが、年中検査に引っかかっているハルにはもはや関係ないのだろう。

 来たバスに乗り込み、後ろの広い席を二人で陣取って座る。携帯電話の画面をタップし続けていたハルが、急に頭を上げて友の方を見た。

「そういえばこの前あいつ見た、ミヤタ」

一瞬友は息を止めて、ハルの方を見る。

「ミヤタ?」

「うん。街ん中ですれ違ったんだけど、母さんっぽい人と一緒に歩いてた」

「へえ」

「それがさ、似てなかったんだよな。あいつおかしいくらい綺麗な顔してんじゃん。母さん超普通の人なんだよ。めっちゃ地味で。だからなんか変だった」

 いつのまにかハルがミヤタの異常さに気づいていたことに驚き、そして彼に母がいることにびっくりした。一般的な家族という構成の中にミヤタが居るという事実が納得できないほどのミヤタの容姿と、地味すぎるが故に変と形容されるその母のことを想像したが、想像しきれずにやめた。

「友もミヤタのこと、綺麗だと思ってるだろ?あれってイケメンとかいう範疇超えてるよな?」

 この質問への回答を一瞬躊躇う自分がいることに、友は我ながら驚いていた。ミヤタを綺麗だと認めることは、ものごとの善悪を判断するようなものだった。綺麗だと認めることが正解で、それに対しての問題は何もないのに、ミヤタの持つ奇妙さを肯定するようで、それが心を乱している。

「うん、まあ」

「だよな?俺だけそう思ってたらなんか気持ち悪いと思ってさ」

 そういってまたハルは携帯電話を叩き始めた。最近はやっているゲームアプリを攻略しようと躍起になっている。その姿を近くで見ながら、友は自分の心にある気まずさのようなものを押し殺した。

 

 教室に着くと、久しぶりの早起きに眠たげな生徒が多かった。皆口々に声をかけあっているが、あくびしている表情ばかりが目につく。いつも通りヒーター横の机につくと、教室の前方ドアからミヤタが登校してきた。

 冬休みの間に随分伸びたように見えた髪型はそのままで、髪についている雪をほろうように頭を振っている。白い雪がちらちらと学ランの肩に落ちる。その雪をまた払うようにしながら、まっすぐ友の隣のヒーターまで歩いてきた。

 どうやらミヤタも暖を取りに来たようだったが、これが友にとってミヤタを間近に見る初めてのことだった。

 もしあの時見た美術の本に載っていた彫刻が実際に今目の前にあるとしたら、こういう冷たさがあるのだろうと思うような姿だった。生きて動かないものを間近にじっとみつめるような、その細部を観察するような気持ちだった。登校までに上気して赤らんでいる頬も、触った先から凍るような冷たさがあるように見える。学ランのボタンを開けるその腕も、触れてはいけないと感じてしまうほどの白さだった。

 彫刻の写真とミヤタを頭の中で比べるようにしてみていると、ふとミヤタが友の方を振り返った。

「この席いいね」

「えっ」

「雪、すぐ乾くから」

 ミヤタの思ったより黒黒しい目が友をじっと振り返った。その先を見越せないような深い色だ。

 友が返答に迷っていると、ミヤタはさっと自席に戻っていった。

「不思議」

 突然隣の西野が間を空けてぼそと呟いた。西野は冬休み前から友の隣に座っていて、もともと仲がいいというわけでもなかったが、隣の席になってからよく話すようになっていた。常に群れている訳ではではないのに女子からの信頼は厚いような、頼りがいのある大人びたタイプとしてクラスに認識されている。

 西野の方を見ると、小さな飴の袋を半分ちぎりながら友の顔を振り向いていた。

「何が?」

「ミヤタ君」

「どこが?」

「わかんない」

 西野が口の中にがこんと飴を入れた。二人でミヤタの方を振り返ると、自席に戻っていると思っていたミヤタはそこにいなかった。

 

 冬休みが明けて通常授業に戻ると、前の日常が段々と戻ってくる。また取り立てて興味のない授業を聞いて一日が終わる。以前と何も変わらないと見えたが、友の周りではそうでもないようだった。

 それに最初に気づかされたのは西野との会話だった。昼休みにいつも通り音楽を聴こうとイヤホンをケースから取り出したところで、西野に声をかけられた。

「永代、冬休み何してたの」

「何も。西野は」

「私も特に。街出た?」

「何回か」

「そっか。ミヤタ君見た?」

 この流れで何故ミヤタが話に出てくるのか、友には全くわからなかった。嘘をついても意味がないので、正直に見たと答えた。

「やばかったらしいね、あの人」

「何が?」

「他クラスの子とかが街で見たらしいの。モデルみたいだって。もう今めちゃめちゃ女子の中で人気あるよ。やっぱ都会っ子は違うね」

 西野が続ける話によると、ミヤタは引っ越し前には東京にいて、その前は関西にいたりと、場所を転々としながら北上して来たようだった。現在は街から比較的近い場所にある一軒家に住んでいて、それで時々街中でクラスメイトたちとすれ違うことがあったらしい。実際にミヤタを見た女子生徒によれば、ドラマや雑誌の撮影でもしているかのような全身の完璧さで、普段の制服の姿と全く違った見た目が更に魅力的に見えたようだった。こういった情報はコミュニケーション能力の高い女子がミヤタに直接話しかけ、その会話が女子の厚い情報網により瞬く間に広がっているらしい。

「中山なんか目じゃないって。うけるよね」

 今まで学年で不動のイケメン一位を取っていた六組の中山は、新しい転校生にその座をまんまと奪われたようだ。本人がそれを知った時、世の中の世知辛さを痛感することだろう。

「女子みたいに綺麗なのに、男らしさもあってさ、ミヤタ君のこと見ると不思議なんだって皆言うんだよね」

「その不思議って前も言ってたけど、どういうこと」

「何か、ぼうっとするの。知らないうちに引き込まれて、いつの間にか抜け出せないみたいな」

 

 しばらくも立たないうちに、クラスの女子がミヤタを好いているとか、他クラスの女子がミヤタの連絡先を聞いたとかで、だんだんとその美しさの周知がされるようになってきた。友が考えるに、全員今まで鈍感すぎた。教室に入ってきた時から、あの容姿や雰囲気はおかしかった。その異質さに皆が気づくのがこんなにも遅いのかと、半ば呆れるような気持ちでもあった。

 友のミヤタへの感情は、女子たちのそれとも違うと自身で思っていた。恋愛感情や性的感情を持っているのかと一瞬自分でも疑ってしまうほどミヤタの印象は強かったが、ミヤタとどうにかなりたいとか、彼をどうかしたいといった、今までに特定の女子に思ってきた数えるほどしかない気持ちをミヤタに抱くことはなかった。愛しいとか情の範疇ではないのだ。

 別教室での授業で席が近くなり、グループワークで同じ班になることもあった。その際同席した女子たちの目線と言ったらすごかった。ミヤタの情報なら何でも有益だとばかりに質問攻めに合わせ、グループワークもはかどらないほどだった。授業が終わりクラスに戻る際、ハルが友に、あいつらいかれてるな、と耳打ちした。

女子に寄ってたかられる時、ミヤタはどんな反応をするのだろうと観察していたが、あしらうような失礼さは一切なく、純粋に彼女たちの質問に機嫌よく回答しているように見えた。大方にして容姿の美しい人間は中身が空っぽで、話術がないとか言われやすいが、ミヤタの会話はウィットに富んでいて面白く、声に出して笑えるようなときも多かった。特に田舎でずっと育ってきた同級生たちとは違い、都会の経験も更に彼の魅力を増すことになった。それも自慢話ではなく、彼が経験したことのごく一部として話すような様子で誰のことも傷つけない。また質問上手でもあり、自分の話だけをして場をしらけさせることもしなかった。

 勉学にも苦がないようで、授業で教師に当てられた際は正しい回答をスマートに答えた。どんな教科も満遍なく不得意がないようだったが、しゃしゃり出るような傲慢さは見せないところも好感が持てる。黒板に回答を書くような機会があればそのミヤタの後ろ姿を女子たちがぼんやりと見つめていることが多かった。

 総じて良い生徒ではあるようだったが、度を超した発言や行動は一切ないので悪目立ちすることはなく、その独特の容姿が理由で勝手に目立つ存在になっていた。思春期にいきりがちな男子生徒たちも、何故かミヤタの前では柔和になり、ただの少年になる。一緒に居る人を自然に変えてしまうような力がミヤタにはあった。

 友はというと特別ミヤタと話す機会があるわけでは無いので、そういう姿を俯瞰してみているだけだったが、ミヤタを含む周りの人間の空気が前とは違う、その違和感にちょっとした恐怖感を覚えていた。あんなに悪ぶっていたクラスの男子生徒でさえ、ミヤタと話すと角が取れたように優しい顔をして笑ったりするのだ。美しい見た目は人の気持ちさえも変えてしまうのかと、その様子をじっと観察していた。




第二章

第三章


第四章

第五章

第六章


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