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【選んで無職日記44】掃除機に吸われていくパン

 小さい頃シルバニアファミリーでよく遊んでいた。今はシルバニアの家族のベビちゃんが人気で、癒しのために会社のデスクにおいて置いたり、”ぬい撮り”のために持ち歩いている大人も結構いるみたいだけど、私の小さい頃は今ほどどうぶつの種類も多くなくて、どちらかというと住む生き物より住む場所の方が重要だったように思う。”赤い屋根の大きなお家”とか。ちなみに今の赤い屋根の大きなお家には屋根裏部屋がついているらしいです。なんて豪勢な。

 私は一人っ子なので、一人遊びするにはシルバニアはぴったりで、赤い屋根の大きなお家も家にあったし、家ほどは大きくないけど人形を乗せて楽しめるようなミニ遊園地みたいなのもあったりした。

 シルバニアといえば覚えている光景が一つあって、色々ある中でもパン屋さんが特に好きだった。敷地面積でいうと赤い屋根の大きなお家くらいあって、一階建ての茶色い店で、パンだけではなくホールケーキなどもあるような本格さで、ショーウィンドウまでついていて外から商品を見ることも出来た。
 ある日母が私の遊び場を掃除している時、すこん!すこん!と聞こえることがあった。掃除機に何か吸い込まれているような音なのはわかるが、小さい私には何が吸われているのかがわからなかった。
 パン屋はおままごとというよりは解体してはまたパンやケーキ、内装などをセッティングするのが好きだった私は、またパンをショーウィンドウに並べようとしたが、どうもパンの数が減っているようだった。
 ここまで書けばもう説明の必要もないが、私の丸パンやクロワッサンは掃除機の餌食となっていた。どうもパン屋の品揃えが悪いと思っていた。だがしかしあの小ささなら吸い込まれて当然だった。そして掃除機に吸い込まれてゆく小さなパンたちのことを思うと、可哀想で可愛い。
 今もあのパン屋は私の実家のどこかで眠っているのだろうか。そして吸われたパンはそのままゴミ箱に捨てられたのだろうか?そんなことを時たま思ったりする。

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