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【ココロコラム】家事は大変

精神科の敷居が低くなってきたせいか、軽症の方が多く外来に訪れるようになりました。男性はけっこう重症になるまでこないのに対し、女性のほうが軽いうちに来られる傾向があります。軽症の人は、いろいろ仕事や家庭で葛藤を抱えていて、それを聞くだけで症状が軽くなる人も少なくありません。中でも、女性は家事についての不満がかなりあります。普通の仕事と家事はどのあたりが違うのか、一度考えてみましょう。

家事は毎日あります。仕事が休みの日でも、食事はしますし、洗濯物も出ます。オンとオフとの切り替えが仕事の場合は明確でしょうが、家事の場合は必ずしもそうでもありません。下手をすれば365日、ずっとオンです。意識して完全にフリーになる日を作らない限り、休みの日がないのが、普通の仕事と違う、家事の大きな特徴です。また、定年がありません。生きている限り何らかの形でずっと続きます。

限界がないのも特徴の一つです。普通の仕事と違って、ここまでで打ち切るという目安が立てにくい側面があります。掃除や部屋の整理などは、どこまでやったらいいのかの限界設定がしにくい。限界が見えてこない作業は、高ストレスなものです。

報酬が出ないのも、一般の仕事と大きく違うところです。なんの仕事であれ、労働力を割けば対価として報酬が出ます。しかし、家事は無報酬です。どんな仕事でも、給料が出るから我慢してやっている部分があります。それが無給となるとどうでしょうか。数字だけ見ればサボればサボるほど得だということになってしまいます。サービス残業などで考えてみればわかりますが、同じ仕事でも、無報酬だと、とたんにやる気が下がります。

家事も同じことです。報酬が出ない以上、ボランティアということです。家事は自分自身のためにやっている場合も多く、一概にお金でくくれるものでもありませんが、無報酬だということはもう少し注目されてもいいでしょう。ボランティア以上の質を求めるのは、本来は筋違いなのかもしれません。

家事には仲間がいません。仕事は部署があり、チームがあります。そうすることで、効率よく分業し、仕事全体の手間をかなり省くことができます。しかし、家事にはそれがない。共同でやるということもめったになく、だいたいは孤独な作業を強いられがちです。言うまでもないですが、孤独は労働のストレスを上げます。

家事は意味付けが大変でもあります。普通の仕事だと、何らかの形で世の中の役に立っているなど、何がしかの意味を見出すことができます。しかし、家事はそれに乏しい。家庭の役に立つのが唯一の意味ですが、それだけでずっと続くものを毎日やり続けるのは、実は心理的にはそんなにやさしいことではありません。

評価されないのも特徴の一つです。仕事だと昇進など、人事で評価されますし、上司にほめられるということもあるでしょう。ところが家事の場合、評価されるのはうまく行った場合の料理ぐらいでしょう。他のものは、むしろ減点法で見られがちです。評価されないものに対しては、ストレスがたまるのは当たり前のことです。

こうしてみると、不利な特性ばかりです。有利なところは、けっこう自分に裁量権があり、好きな時間にやりたいようにできる点や、手を抜こうと思えば抜ける(しかし、そうできない人があまりにも多いです)点ぐらいでしょうか。大多数の面は、辛い側です。

しかし、日本の男性はまだ家事に対する意識が低いというか、ほとんど女性に任せてしまっているのが実情です。これまで述べたような家事の特性を理解し、分担を増やしたり、少なくとも評価することで、男女の関係性もよくなるような気がします。

(精神科医・西村鋭介)


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