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【ココロコラム】ベストではなく、ベターで満足する

人生は選択の連続です。朝起きるか、それとも目覚ましをかけて二度寝するか、から始まって、食事を何にするか、大きな問題ではどの仕事を選ぶか、どの地域に住むか、どの異性と結婚するかまで、無数に選択をしています。

選択には悩みがつきものです。ある道を選べば、それは別の道を切り捨てることになるからです。朝食をパンにするか、ご飯にするか。パンにした場合、もうごはんを食べるわけには行きません。これくらいならいいでしょうが、ある異性と結婚するとします。他にも気になる人がいても、そちらのほうはあきらめざるをえません。何かを選ぶことは、何かを失うことです。

その状態がいやなので、いつまでも選択をしないで中途半端な位置にとどまり続ける場合もあります。無限の可能性を持った自分でいたいわけです。20代や30代の前半までは【モラトリアム】といって、正式な労働をしないで自分の進路を保留する生き方もありでしょうが、いずれは選択を余儀なくされる場合がほとんどです。あまりに引き伸ばしていると、両方の選択肢を失うこともあるからです。

人生に無数に起こる選択について、少しでも後悔を減らしたほうが、大幅に生きやすくなるはずです。では、どうしたらそのような境地に近づけるでしょうか。

ひとつは、最善や理想を求めないことでしょう。一番いい学校や、理想の配偶者じゃなければいやだとばかりに、ずっと同じことにこだわっている人がいます。これは、目標が達成できても、「思ったほどたいしたことなかった」とがっかりしやすく、達成できなければ「この目標で失敗したから、今の自分は不幸なのだ」ということになってしまいます。非常に損な考え方です。

精神科医が不安障害を治療するときに、まず着目するのが、患者さんの悩みで何にこだわりすぎているかです。目標や夢への過度な執着は、よけいな悩みを生みやすい。最善ではなく、次善、ベストではなく、ベターなもので満足するような心の持ち方を身につけていると、ぐっと生きやすくなるはずです。

この際、気をつけたほうがいいことは、かけた手間をなるべく考えないようにすることです。これだけ労力をかけたのだから、報われるはずだ。最低限、もとは取り返したいというのは、とてもよくある人間心理です。しかし、これが落とし穴。ギャンブルでも、「負けたお金を取り返そう」と考え、無謀な大穴を狙ってさらに損失を広げる。これは、典型的な負のスパイラルになってしまいます。

もちろん、手間や労力を充分にかけたもの、努力を長年続けてきたものほど、愛おしく思いますから、こだわるのはある意味やむをえません。しかし、それは最小限にしたいものです。取り返しのつかない投下した時間や労力やお金のことを【サンクコスト】といいます。人間の心はどうしても【サンクコスト】に引きずられます。心をある程度冷静に保って、【サンクコスト】をある程度頭から除外して考えられるようになると、選択や判断の達人といえるでしょう。

また、自分が選択したものについては、プラスに考えていくことが大事です。逆に言うと、自分が選択しなかったことについては、悪くマイナスに見積もってしまうのが、よい割り切り方です。この会社は第一志望じゃないけど、なかなかいいところもあるじゃないか。ここはいいところだなど、選んだ方は甘く見る。一方、注文しなかったほうの料理はあまり美味しくないだろう。自分を落とすような大学は最悪だ。あの人とは縁がなかった。無理にでもこのように考えていくことで、現状を肯定する力が生まれます。

今日もあなたの人生にはいくつか選択があるはずです。選択上手をめざしたいものです。

(精神科医・西村鋭介)


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