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母がいた-10
こちらの記事でお酒について触れた話を父にしたら、母の昔話をひとつ聞かせてもらえたので、忘れないうちにここに書くことにする。
上記の記事でも触れたが、母はとにかくお酒が好きだった。それは若いころも同様だったらしく、母は短大を卒業した後、酒好きが高じてスナックで働いていた時期があったそうだ。たしかお店の名前はトランプ、だったか。
お世辞にも美人といえるタイプではなかった母は、当初スナックで働いていけるのか不安を感じていたが、持ち前の愛嬌と礼儀作法ですぐに人気のスタッフになった。愛嬌はともかく礼儀作法に精通していたのは、母がお嬢様だったことに起因する。この話はこの話で面白かったのでまた後日書く。
そんなこんなで人気を獲得した母は、頻繁にお店に入るようになり、常連客の間でもおなじみの「ちゃんこ(母は昔からこの愛称で親しまれていた)」になっていった。
ある日、遠洋漁業を生業とする漁師の一団が来た時のこと。久しぶりのオカでの飲み会ということもあってその日は大層盛り上がり、母も相当量のお酒を飲んでいた。閉店時間になっても落ち着くことのなかった一団は、店を出た後「ちゃんこを船に乗せてやろう」という話になったらしい。
母もノリノリで「行く!!」と言ったそうで、漁師の一団と共に母は港へと向かった。スナックと港は目と鼻の先で、すぐに船場へ着いた母は、初めて見る漁船に大興奮。デッキや操舵室を見学して回り、漁師にエスコートされながら見学ツアーを満喫したそうだ。
船の上でも酒盛りが開催され、そこでもしこたま酒を飲んだ母は、店終わりの気が抜けた状態もあってか気が大きくなり、
気付くと身にまとっていた服をすべて脱ぎ散らかし、
すっぽんぽんで船の中を全力疾走しはじめた。
深夜の静かな港で、爆笑しながら全裸で船のデッキを駆け回る母。地獄かな?
それを見た漁師の一団は、「ちゃんこが壊れたぞ」「落ちたら危ない」「全部まろび出てる!何か着せろ!」と、毛布をもって母を追い回した。いやこれ書いてて思ったけどこの漁師さんたち優しすぎる。変な気を起こす人が一人もいなくてよかったよマジで。母しっかりしてくれ。
そんなこんなで漁師に捕獲された母は、船室の中で爆睡し、翌朝目が覚めるとすっぽんぽんで知らない船の中にいた、という話だった。ちゃんちゃん。
さすが母、そんじょそこらのお酒失敗談には負けないパンチを持っている。
ただ、それを機に反省した母はお酒との付き合い方を学んだのだろう、それ以降は完全に介抱する側に回ったようだ。やはり聞けば聞くほど深みが増す。母のおもしろエピソードは尽きない。
優しいお客さんに囲まれ
すっぽんぽんで船を駆け回り
身をもって酒の怖さを知った
そんな、母がいた。
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