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去年マリエンバートで

映画を観た。白黒映画。去年マリエンバートで。


映画のあらすじは……と質問されると戸惑ってしまうけれど、ざっくりというと駆け落ちをしようとする男女の話。一年前に駆け落ちの約束をしたけれど、女性は全く覚えていないようで、男性が色々と言い続ける、という。

けれど、このあらすじは多分見る人によって変わると思う。上はおおよそ多くの人が感じるあらすじ。


私という優柔不断な人間から見たあらすじは以下のようなもの。

この話、ある男性に襲われてはもう夫といることはできないと思っている女性の話なのではないか、と思っている。男女には何か通じ合うものがあっただろう、仄暗い何か通じ合うものが。けれど、肉体関係は女性の望むものではなかった。将来的にはわからないとしても、少なくともその段階では。

ある男が妙に言い寄ってくる。たしかに何か通じ合うものがあるが、結婚しているという状態を捨て去ってまでその男と一緒になる気はない。けれど、徐々に男の熱に押され始める。そして、男に襲われる。これが去年のこと。

一年が経って、男は依然として熱を持って駆け落ちを迫ってくる。冷然と理性の人であるように見える夫とは全く違う人間。
決めかねているうちに夜が来る。夫は事態に気がついているが止めようとしない。

男と一緒になることが正しかったのか、わからないけれど、舞台は整った。二人は真夜中に駆け落ちをする。

けれど、その判断が正しいことだったのか、わからない。ただ男の熱に押し切られただけなのではないか。でも、この男に何かあると感じたはずではないか……。行くべきであり、同時に、行くべきではなかった……。

「あなたは今や永遠に迷いかけている。静かな夜の中、私とふたりきりで」


誰かの熱に押し切られた時、怒りのままに行動してしまった時、後から、考えても考えてもよかったことなのか分からない。怒り、憎しみ、恐怖のように外からやってくる感情は、私を支配し、駆り立てる。そして、誰かからの熱情も。

ちなみに、私も今や永遠に迷いかけている。人生という名の夜の中、たった一人で。なんちゃって。

怒りのままに転職しちゃったから、何が正しいのか今わからないの。考えなきゃとは思ってるけど、なんだか、どうしたらいいかわからないや。今も悪い会社じゃないし、でも何かが欠けてる。何かな。わからない。

とはいえ、熟慮の末に決断したことも、迷いの中に、二つの意思に引き裂かれる迷いの中に簡単に転げ落ちてしまう。きっと。


この映画の良かったところ。
男性の思い込み激しめそうな語り、その語りのせいで「客観」などは存在せず、歪んだ時と主観の中で進んでいく映像がすごく良かった。
それから、見る人によって捉え方の変わるストーリー。私の中でもう一つあらすじがあるけど、それはもうみんな死んでるの。あの世とこの世の間みたいなところから、あの世へ行くために、永遠に暇を潰しているようなところ。

もちろん映像も恐ろしく綺麗だった。
長く伸びる影。つきまとう男は死の象徴のよう。

いくつもの可能性が内在する物語、結論のない物語、迷いの中にある物語。まさに本当の人生みたい、なんてね。


まだやってるみたい。良かったら見に行ってね。


最後まで読んでくれてありがとう。