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【読書記録】『紫式部と清少納言が語る平安女子のくらし』を読んで考えたこと

鳥居本幸代さんの『紫式部と清少納言が語る平安女子のくらし』を読みました。

基本的に『源氏物語』『紫式部日記』『枕草子』など、当時の書物に書かれている女性たちの一生を抽出してまとめられた本です……って、当たり前か。なので、ファッションや音楽のお稽古など、「あ! これ『源氏物語』ゼミでやったところだ!」みたいな部分は、多々あります。

この本の対象読者は、平安貴族女子に興味があってそちらについてレポートを書こうとしてる人たちかなあ……という気がします。(でも、最近のレポートって、学んだことをまとめて書く程度じゃダメなんですってね。最近の学生って大変……)

それにつけても、一冊にまとめられると壮観というか、平安貴族女子って大変だなあ……と思ってしまうのでした。

いや、だって。
ファッション、音楽、和歌、香が、女子の身だしなみと言われても、当時の女子ってほぼほぼ家にいて、家族としか会わなかったわけでしょ?
それでセンスを磨けと言われても、え? ほぼ独学?
家庭教師的な人を雇える高級貴族はともかく、そうじゃない家の娘って、女房として仕え始めて(宮中に出仕して)、そこで自分のレベルに気づかされたりするわけでしょ? 地獄じゃん。

でも、そんな平安貴族女子のくらしには、めっちゃ金がかかっているなあ……というのがわかるし(香って東南アジアやインド、アラブ、エチオピアからも輸入してるじゃん、え? おいくらよ)、そもそもその経済を支えてたのが荘園だったりするわけでしょ? 格差社会だから、そういう生活ができた。格差の頂点にいる人々が買うから、凝った芸術品も生まれた。もやもやします。

そんなお貴族様も、11世紀になると良家の娘も宮仕えをせざるを得なくなったと……あ、道長に権力集中したからですか? だから、没落貴族が増えた?
乳母や女房の人選には、貴族も気をつかっていたはずで、道長も「裏切らない者」で固めたとか。身内の娘を採用する、というやつですね。
じゃあ、ライバルだった没落貴族の娘を採用したりすると、悪意を向けられそうで怖くない? と思うんですが。採用することで恩を売るとか、あったんでしょうか。
女房に採用することで、同時に、道長家の娘たちのライバル(入内しそうな娘たち)の入内を阻むこともできたわけですから、精一杯待遇良く雇うというのも、あり得たかもしれませんね(という妄想)。
現実問題、父親が没落すると、女子がひとりで生きていくのは大変でしたから、女房となった元良家女子たちは頑張ったでしょうし。

そんな彼女らの目標は、帝の乳母になることだそうで、育てた帝が成人すれば、三位にショートカット昇進だそうですから。三位ですよ、三位! 父親が従五位下だったとしても、乳母となった娘は三位! ちょっと男には真似できない昇進です。
清少納言も帝の乳母になりたかったとか。平安キャリアウーマンの憧れの職業だったんですね。

そんなキャリアウーマンもいた傍らで、内親王や女王は斎宮・斎院に選定されることもあり、そうなると場合によっては、何十年も神に仕えるという名目で閉じ込められ状態……。可哀想すぎる、と思う私は閉所恐怖症。
まあ平安貴族女子って、自由に外を出歩けない立場ではありますけどね。それに、内親王が降嫁するのを快く思わないってのもありましたけどね。
何だろう、王朝という組織を維持するために使い捨てにされたようで、胸が詰まります。

平安女子のくらしって、あらためて読んでみると、確かにうまい具合に人生を転がしていけるうちは、面倒なことを全部親がやってくれて、家でのんびり物語でも読んでいればいいだけなのかもしれないけれど。
ひとたび父親が失脚・早逝でもしようものなら、慣れない仕事や環境にもNoと言えず、場合によっては従姉妹の召使にもなり、子どもの頃の夢も希望も全部捨てて、いじめにも耐え、就労時間の規定もなく、プライバシーのない局と主人の部屋とを行ったり来たりする生活が延々と続く……。
現代人の感覚だと、ちょっと御免被りたいです。
なら、庶民(農民)ならいいのかと問われても、そっちはもっと過酷すぎる。

やっぱり、民主主義社会って偉大です。
そりゃ、今が楽園かと言われたら、そうではないし、まさに円が暴落して国家破綻しそうだけど。
権力をもった者だけがいい暮らしができる、そんな社会はやっぱり持続可能ではない。

正直、平安貴族女子ってあまり政治に関わらないので、読みながら、彼女たちの生活を支える経済や交易について、もっと知りたくなりました。
中東やアフリカのものが入ってきてたって、シルクロードですよね? 中国ではすでに唐も滅んで、キタイと北宋の時代ですよね? 
海千山千の大陸住民と、温室育ちの平安貴族は、どう交易してたんだろう。あ、女子の話から逸脱してるやん。

でも、平安貴族女子だってファッションや芸術にしか関心がなかったわけではなく、清少納言先輩は『戦国策』も読んでたらしいですからね! そりゃそうか、漢詩だけなわけないよねえ。
てことは、平安貴族男子も読んでたんですよね? 『史記』とか。易姓革命も知ってたんですよね? でも、他人事だったわけ?

なんか、平安貴族女子を知れば知るほど、現代で自由に書物を読める我々が古代中国の書物を全然読んでない、せいぜい高校の漢文の授業で読む程度ってどうなの? と思ってしまいます。
政治や思想の宝庫だし、アジア人の思考の原点なのに。

読書をすれば、自分がまだ読んでいない本がたくさんあることを知り、読みたい本や知りたいことが増え、それらに足るだけの人生がないことに絶望する。
なんだ、意外と平安貴族女子と変わらないじゃないか。

ということで、清少納言先輩に負けないように、もっと本を読もうと思うのでした。1000年前の偉人と張り合っても、しょうがないんですけどね。

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