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『ユダヤ人の歴史㊦』を読み終えて考える、差別と迫害の身近な問題

『ユダヤ人の歴史㊦』を、一か月かかってやっと読み終えました。

下巻は、どうあってもホロコーストを通らざるを得ないので、間にちょくちょく他の本もはさみました。
はさみつつも、絶対途中で投げ出したくなかった一冊です。

19世紀初頭くらいから1987年刊行までの『ユダヤ人の歴史』が下巻。
近代以降の部分を読んでいると、ユダヤ人問題というのは、そのまま移民問題なのではないかと思えてきます。
経済的に豊かで能力の高い移民は歓迎するけど、貧困層が大量に押しかけて来たら困る、とか。
異文化の集団が近所に来て、自分たちの社会を変えていったら困る、とか。

外国人問題だけじゃなく、国内問題でも、そういうの耳にしません?
若い人には移住して欲しいけど、郷に入れば郷に従え、とか。
年金生活者ばかりが来られても……とか。
気持ちはわからんでもないけど、ちょっと寂しい。

そうやって、富裕層ビジネスマンをうまく利用していても、銀行や芸術文化分野でユダヤ人が占める割合が上がると、途端に反発するようになる。
何なの? と、読みながら首をひねってました。

ああ、そうか。
「ユダヤ人」を「中国人」「韓国人」に置き換えたら、日本人にも身近な問題になるわ。
差別と迫害の歴史、あるし。
銀行やマスコミが、中国資本・韓国資本に抑えられたとしたら、そりゃ当然反発は起こるだろうし。
自分たちの場合に引き寄せて考えてみると、他民族の問題も、ぐっとリアルに感じられる。
これは、一筋縄ではいかんやろ。

それでまあ、融和と迫害の波を揺り返しつつ、ユダヤ人大虐殺に突き進んだのが20世紀前半で。
発端の一つに『シオンの長老の議定書』なる怪文書(ユダヤ人の脅威を煽る陰謀論)があったというのも、なんか身近な感じがします。
人は、自分の信じたいものを信じるんですね。私もそうかもしれんけど。
でも、いくら脅威に感じても「全滅させろ」はないと思う。それは、絶対。

当時のユダヤ人も、まさかナチスがユダヤ人滅亡を考えてるとは思ってなかったんですよね。
殺害があるかもしれない。でもそれは少数の人でしょ? と。
財産没収はあるかもしれないけど、命までは取らないでしょ? と。
最悪の事態は起きない。そう思ってたんですよね。アウシュビッツへの貨物車の中でも。ガス室への列の中でも。

これは、我々への、ものすごい警告なのではないだろうか。
誰が政権を取っても、最悪の事態は起きない、そう思って高をくくっていないだろうか。
正常性バイアス。

例えば、人のせいにはしないで、自分で自分を変えよう、そういう自己啓発本は多いけれど。
自分をどんなに善人に仕立て上げても、問答無用で無差別殺戮しに来る誰かがいた場合、自分の努力だけではどうにもならない。事前に危険を察知して逃げる以外に手はない。
そもそも問題なのは、自分ではなく相手だから。
何事にも忍耐が美徳……なんて我慢してたら、殺される。
嫌だと主張すること。逃げること。戦うこと。
そういう場面って、実は日常のあちこちに潜んでやしないだろうか。

ユダヤ人の歴史は、我々ひとりひとりが生きる上で向きあわなきゃいけないことを、教えてくれている気がします。
日本にしっかりしがみついて生きてる、そのことを意識なんてしてなかったので。

そして著者のポール・ジョンソン氏によると、アンティ・セミティズム(ユダヤ人迫害)は、とりつかれた人々や社会そのものを腐敗させる、とあります。
ナチスではなく帝政ロシア~ソビエトの例ですが、ユダヤ人迫害を続けるうちに、閉鎖的威圧的で高度に官僚的な管理体制に慣れ親しみ、レーニン、スターリンに政権が移ると全人民を管理する機構に拡大し、人権喪失に至った、と。
つまり、ユダヤ人迫害のために、その生活全ての情報を握ることになるから、管理体制は強化されるし、他者の生殺与奪を握るというのは、人に危険な万能感を味わわせるから、その万能感・優越感を維持するためにも、閉鎖的威圧的に人間はなっていく。そしてそれが当たり前になっていくと、ユダヤ人のみならず全国民をも支配管理するのが当然となる……ということでしょうか。

そんな危険性が人間の心理としてあるならば、やっぱりあらゆる差別はなくす方向でいかないと、危険なんじゃないかと思います。
ユダヤ人4000年の歴史が教えてくれる、人類の知恵でしょ? それは。

この本は1987年に書かれ、翻訳されたのも2000年なので、現代史の部分はどうしても弱いです。仕方がない。
それでも、人類の歴史を振り返る上で、一読の価値はあるんじゃないかと思います。
少なくとも、日本人中心の歴史観から一歩引けますよね。視野は広がる。
上下巻合わせて1000ページ近い本だし、登場人物も膨大だから、読む端から人名をするする忘れてる気はするし、迫害が繰り返されてるから、一つ一つの事件の整理が追い付いていかない気もする。
でも、ものすごくたくさんのことを学ばせてくれる本だと思う

歴史を知るって、本当にもう基本中の基本なので。
自己啓発本なんかより、全然人生を学ばせてくれるので。
興味を持ってくれる人が増えて欲しい。それを切に願うのでした。


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