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世界を突き破る『解答者は走ってください』
クイズ?
うーん、興味ないな。
マルチバース(多層世界)?
最近よく聞くけど、意味はわからないな。
「そんなんで、よくこの小説を読もうと思ったな!」と、ツッコミ入りそうですが、
本の話題をあつかった某YouTubeチャンネルで、MCの女性が紹介していて気になってしまったんです。
だって、初手で「怜王鳴門(れおなるど)」、「パパ上」って単語が出てきたら、なんか気になるじゃないですか!
「それに、面白くないと思ったら読むのやめればいいだけだし〜」と気楽に読み始める。
1ページ目を「ふんふーん」と読んでいく。
怜王鳴門は二十七歳だけど、パパ上がいないと本も読めないし、テレビも見れないし、記憶も残せない。生まれてから部屋を出たこともない。
でも、それは偽りの記憶なのだ。
本当の彼は、パパ(パパ上とは別人)から産まれ、父乳を飲みながら育ったクイズ好きの天才である。
「え???」と盛大にハテナが頭に浮かぶ。
しかし、そのハテナは、物語を読み進めさせるフックのようなもの。
「どういうことなの? もっと知りたい!」と、ページをめくる手が止まらない。
この小説に登場する主要キャラのほとんどが、クセ強だ。
幼少期の怜王鳴門が公園で悪魔のような暴れっぷりを披露したかと思えば、「鉄の少女」サッちゃんが登場して、あっさりと彼を倒してしまう。
サッちゃんに敗れ、仰向けに倒れた怜王鳴門が
「スゲエ。アンタスゲエよ。外の世界って広いんだな。オラ、長男だからワクワクしてきちまった!」
というシーンに笑ってしまった。
笑ったら最後、この物語が愛おしくなり、一気に読んでしまった。
乙一のあとがきや『小生物語』、森見登美彦、石田夏穂あたりのノリが好きな人は、前半の荒唐無稽な文章の波に乗れる。
「なんで?」と疑問に思った箇所も、後半から「そういうことか!」とわかるので、多少波に乗れなくても大丈夫だ。
正直に言うと、読み始める前は、こんなに感情をミキサーにかけられ、あやうく泣きそうになるとは思ってもいなかった。
『解答者は走ってください』は、どこまでも世界をひっくり返し、どこまでも走っていく。
終盤の数ページで、とあるキャラが怜王鳴門に「ゆるいエピローグでもしっぽり語って、一緒に楽になろうや」というシーンがある。
小説を、一度でも書いたことがある人なら、この言葉に頷きたくなるはずだ。
迫る応募締め切り、書く行為からくる疲労感……もう、ここで終わりにしていいよね?
書き手としては、ゆるやかなエピローグでしめて、もう創作の苦しみから楽になりたい!
でも、著者の佐々木陸はちがう。
残り数ページで、さらに物語を加速させていく。飛び越えていく。
すごい新人が生まれた。
打ちのめされた。
この書き手は、自分の作品に最後まで責任を持ち、駆け抜けた。
すごい、すごすぎる。
新人作家で、こんなにも荒唐無稽でありながら、信頼できる書き手は、今まで出会ったことがない。
「佐佐木陸の次作は、読めるのか?」
期待を胸に、○✕クイズの板に向かって私は、走り出す。
『解答者は走ってください』(佐佐木陸)
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