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【読書記録】森鴎外「舞姫」 井上靖 訳 

 今回は森鴎外の作品「舞姫」を読みました。もちろん現代語訳版ですが。高校3年生の時に授業で初めて出会って以来、お気に入りの作品の一つです。

  森鴎外は言わずと知れた明治・大正の文豪の一人です。一方、東京大学医学部卒の立派な陸軍医官でもあり、日清戦争に参加するなどとても多彩な人物としても知られています。

  『舞姫』は生涯残した作品の中でも特に評価の高い作品の一つであり、高校生の教科書にも採用されている(今はどうなのかは知りませんが、いずれにせよ私が高校生のころにはそうでした。)ものになります。

  主人公は日本からドイツへ留学している学生、太田豊太郎です。彼は日本の某省に勤める非常にまじめな青年なのですが、偶然踊り子のエリスと出会います。そしてだんだんと交際をするようになり某省を免官されてしまいます。しかし日本の友人がドイツに来た折に日本に帰国するチャンスを豊太郎に与えます。
  果たして豊太郎は日本に帰国するのか、それともエリスをとるのか、というのが物語のあらすじになります。

  この物語を読むといつもぞくっとさせられます。豊太郎の姿と自分の姿が重なってしまうのです。豊太郎は非常に優秀ですがその反面まじめなところがあり一途です。なので与えられたことは非常に高いレベルでこなします。しかしながらいざ自分が重要な決断をしなければならないという局面になると一気に怖気ついてしまいます。そうして決断を先延ばしにする中で大切なものを失っていくのです。

  このような状況は私にも覚えがあります。おそらく多くの人がこのような経験を一度はしているのではないでしょうか。なんとなくですが肌感覚として日本人はわりにこのようなことをしてしまいがちなのではないかと思います。日本の役所の仕事を見ていても、自分自身を含め周りの友人を見ていてもそれは感じます。

  おそらくこの話は森鴎外自身がドイツに留学していた際の経験をもとに書かれているといわれています。おそらく森鴎外自身も一見すると非常に優秀な人物ですがこのような経験があったのかもしれません。

  そして強く感じるのがこのようなことが当時の日本では頻発していたのではないかということです。多かれ少なかれ当時の小説には江戸から明治という激動への不安や批判が描かれています。私も研究をしたわけではないのですが、日本政府のこのような優柔不断さにくぎを刺すという意味でもこの小説は大きな意味を持っていると感じます。

おわりに

  今回も例によって古い作品シリーズです。古いものもなかなか学ぶところが多くていいですよ。少し読みにくくてとっつきにくい感じや救いのなさがありますがそれはそれで面白いと感じます。世の中の作品が何でもかんでもテレビ向きのハッピーエンドだったらつまらないわけですし。
  とにかく面白い作品になっているので読んでみてください!


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