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在野研究一歩前(10)「"在野研究者"は"インディーズリサーチャー"なのか?~インディーズバンドとの比較から考える~(1)」

 今回の「"在野研究者"は"インディーズリサーチャー"なのか?~インディーズバンドとの比較から考える~」は、以下の四部構成で論述していく。

1.はじめに
2.「インディーズ」とはなにか?
3.在野研究者とインディーズバンドの共通点・相違点
4.おわりに


 今回は(1)ということで、以下より「1.はじめに」を始める。

            *

1.はじめに
 私は先日、中学時代の同級生と再会し、ご飯を食べながら、「かつての夢」と「今後の目標」について、意外と真面目な話しをした。
 私は未だに―この言葉遣いは私の本心ではない―学生生活を過ごしているのに対して、同級生の彼は高等学校を卒業後、地元の外食チェーン店に就職し、今年中に結婚をする彼女と同居生活を送っている。
 ぐーたら生活をおくる自分と、社会人として立派に生きる彼―いつの間にこんな差ができてしまったのだろう。食べ物を口に運ぶ彼の顔を見ながら、私はそんなことを考えていた。


 私と彼の共通点は「音楽好き」であることだった。
 今でこそ「本好き」「古本好き」と口うるさく言っているが、高校時代までの私は「本」などむしろ「嫌い」で、両手で数えられる程しか本を読んでいなかった(今はこのことを大変後悔している)。
 かつての私が好きだったのは「音楽」で、毎週一回はレコード屋に行って新着をチェックし、タワーレコードが発行している冊子を集めるのが習慣になっていた。大型ショッピングモールや駅ビルに行って、最初に足を運ぶのは「レコード屋」、「本屋」になど興味がない。足を運ばないことの方が多かった。
 同級生の彼と私には、共通で好きなアーティストが何人(何組)かいて、地元のホールでライブが開催されることが決まると、ありとあらゆる人間関係を駆使して、チケットを手に入れていた。一緒に電車に乗ってライブ会場に向かい、終わった後、近くのマクドナルドで、何時間もライブの感想を語り合ったのを、今でも鮮明に覚えている―あれこそ、まさしく「青春」だった。


 私はもっぱら音楽を「聴く」のが好きで、勿論技術的な問題もあったのだろうが、あまり「弾く」ことには関心がなかった。一方彼は、きちんとバンドを組んでいて、何回か高校の文化祭での演奏を聴かせてもらったことがある。当時の彼は真剣に「プロ」のアーティストになることを夢みていて、高校卒業後は「インディーズバンド」として実績を重ね、いつかは「メジャーデビュー」―彼の心中にはそういう「サクセスストーリー」が描かれていた。
 しかし、そのような夢を現実のものにするほど、彼(とその家族)には経済的余裕がなかった。彼は高校卒業後、周囲の半数以上が大学に進学していく中で、地元での就職を決意して、よく二人で食事にも行った「某外食チェーン」で働き始めた。その時点で、彼の「メジャーデビュー」の夢は、儚くも消えていったのである。

 ―こんな風に言うと、現在の彼は不幸せな人間に思えるだろう。だが実際の彼は、芯から幸せそうな表情をしていた。

「○○よー、俺とうとう結婚するんだなー」

 彼はにやにや顔で、私に彼女さんの写真を見せながら、そう言った。
 彼女とツーショットでうつる彼の顔と、今目の前でにやけている彼の顔―どちらも、羨ましくなるほど「幸福」そのものだった。
 
 彼の現状を一通り聞いたあと、次は私が自身の現状を語る番になった。
 私は細かい話をしても意味がないと思い、簡潔に現状を述べた。いまは○○に関して調べている、バイトは✖︎✖︎と△△、□□をしている、友人とはよく~~に行く、などなど。色々と切れ切れの話をしていく中で、(「彼女」に関する話題は抜いて)最も彼が興味を示した瞬間は、「在野研究」について話をしている時であった。
 彼はそもそも「在野」という言葉を初めて聞いたらしく、熱心に「在野ってどんな意味?」と質問してきた。私が色々な「定義」を説明していくと、彼は「なるほど、なるほど」と一々合槌をうった。私が話をし終えると、彼は飲み物を口にしながら、何か考えている表情を見せて、数十秒後にニヤッと口元を緩めた。そして、彼は自信満々にこう言い放ったのである。

 「てことは、今お前は、研究界のインディーズバンドってことだな」

 "研究界のインディーズバンド"??―私は彼の独創的な発想に、思わず笑ってしまった。そして、「在野研究者って"インディーズリサーチャー"って言い換えられるのかな?」と一つの疑問が頭に浮かんできた。
 
 「なんだかんだで、お前の方がロマンチストやったんやな。
  俺は諦めたけど、お前は諦めんな! 応援してる」

 彼は私にそんなことを言った。その流れで、だったのか、彼は今回の食事を御馳走してもくれた。

「同い年なのに、申し訳ない……」

 私はこの言葉を、必死に口から出ないように我慢しながら、笑顔で彼と別れた。
 とても楽しい時間であった。加えて、一つ考えてみたい疑問も掴めた。

「"在野研究者"は"インディーズリサーチャー"なのか?」

 人によっては、どうでもいい問題かもしれない。ただ私にとっては、かつて「インディーズバンドとして名をあげ、メジャーデビューすること」を夢見ていた友人を通して浮かんだ疑問であるために、それなりに真剣に考えてみたいのである。
 この疑問を考えるには、まず「インディーズ」とは何であるのか、について確認する必要がある。次章では、その点を述べていきたい。

(次稿は「2.「インディーズ」とはなにか?」)

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