見出し画像

ヨーロッパ軒総本店の3種盛スペシャルカツ丼(福井県福井市)|柳家喬太郎の旅メシ道中記

当代一の落語家・柳家喬太郎師匠。お声がかかれば全国あちこち、笑いを届けに出かけます。旅の合間の楽しみは、こころに沁みる土地の味。大好きなあのメシ、もう一度食べたいあのメシ、今日もどこかで旅のメシ──。この連載「旅メシ道中記」では、喬太郎師匠の旅メシをご紹介します。

 長らく、ソースカツ丼の主役は「カツ」だと思って生きてきました。けど、福井のヨーロッパ軒総本店のソースカツ丼は違った。まさかの「ソース」が主役だったんです。

 その理由については店の歴史をひも……ける字数じゃないのでざっくり話しますとね、ヨーロッパ軒のソースカツ丼は創業者の高畠増太郎さんが、修業先のドイツで出会ったウスターソースのおいしさを日本人に広めるために考案した料理なんです。つまり“始めにソースありき”。ソースをかけたご飯をおいしく食べるための名脇役に選ばれたのがウィンナーシュニッツェル、いわゆるカツレツだったからこちらのカツは薄めで大ぶりなんです。すべてはソースのための舞台、カツに付き物のキャベツも存在しないのであります。

「カツは豚ロースで厚さ8ミリ。嚙んだ時の肉汁とソースのバランスが一番いいんです。香りと旨みをのせるためラードで揚げますが、極細のパン粉を使うので油を吸いすぎず、軽く仕上がります」と、創業者の曽孫で4代目の輝成さんが教えてくれましたが、ほんとにそうなのよ。ソースにくぐらせてるのにサクッとしてるのよ。皆さん気をつけてくださいね、蓋を開けたが最後、甘辛いソースをまとった揚げたてカツのこれ以上ないくらいわく的なにおいに骨抜きにされますよ。軽くって“食べ心地”がいいからさくさく食べられて、気づけば丼に詰まってたご飯が消えてる。「良い酒は水の如し」と言った方があるそうですが、近いものを感じます。近所にあったら危険です(通い詰めて太る!)。

 とは言いつつ、福井の人が羨ましいですよ。だってソースカツ丼以外にも魅力的な洋食メニューがたくさんあって、地元の方が注文してた「ヤキメシ」とかすごく気になるけど、仕事で年に一度来るか来ないかのぼくは、結局ソースカツの香りに屈してしまうから!で、あれもこれもと欲張って、ソースカツに加えてエビフライとメンチカツまでのった「3種盛スペシャルカツ丼」を頼むわけです。とくにエビフライが秀逸でね、カツと厚みを揃えるため開いてるのにぷりっとしててソースとの相性も抜群。このエビフライが2枚のったエビ丼ってのもいつか……いや、その前にヤキメシだ。いやでもソースカツも外せない……北陸新幹線が延伸されて福井に行きやすくなったけど、ほかのメニューへの道のりはまだまだ遠いっす!(談)

談=柳家喬太郎 絵=大崎𠮷之

【ヨーロッパ軒総本店】 
1913(大正2)年に東京・早稲田で創業。同年にソースカツ丼が考案され、これが元祖といわれる。関東大震災後、創業者の郷里である福井市に移転。現在、県内に暖簾分けが19店舗あり、各店微妙に味が異なるので、好みにあった”マイヨーロッパ軒”を見つけてみては。

ヨーロッパ軒総本店 
☎0776-21-4681 
[所]福井市順化1-7-4 
[時]11時~19時50分 
[休]火曜、隔週月曜 
[料]3種盛スペシャルカツ丼セット(サラダ、みそ汁付き)1,500円

柳家喬太郎(やなぎや・きょうたろう)
落語家。1963年、東京都世田谷区生まれ。大学卒業後、書店勤務を経て89年に柳家さん喬に入門。2000年真打昇進。「初めてのヨーロッパ軒は上方の笑福亭松喬お兄さんと訪れた敦賀の店舗でした。こちらもおいしかった!」

出典:ひととき2024年5月号

▼バックナンバーはこちら。フォローをお願いします!



よろしければサポートをお願いします。今後のコンテンツ作りに使わせていただきます。