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甲斐みのりさんが語る愛しの郷土玩具 旅の思い出が詰まった宝物

猫や猿などの身近な動物、福々しい鯛や達磨などの形に、土地ごとの神様や伝承が反映されているという郷土玩具。子供らの健やかな成長を願い、豊作を祈って早苗を植える若葉繁る5月を前に、文筆家の甲斐みのりさんに郷土玩具についての思いを綴っていただきました。愛らしい張り子や土人形の姿をぜひご覧ください。(ひととき2022年5月号特集「愛しの郷土玩具」より)

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 幼い頃、父がお土産にと買ってきてくれた郷土玩具が好きで、今でも旅に出ると、その土地に伝わる郷土玩具を求めたり、制作する工房に立ち寄ったりしています。郷土玩具を見るたびに、その旅のことを思い出せるのがうれしくて。

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浜松張子 魚買い達磨【静岡県浜松市】魚を手にごきげんな達磨が吊られてゆらゆらと揺れる。5代にわたって作られている浜松張子。徳利バージョンもあり

 郷土玩具を見ていると、日本各地の暮らしに思いを馳せることができます。だから、地域ごとに違う素材も魅力のひとつですね。紙きが盛んなところでは、張子や紙ふうせん、竹が採れるところでは、竹細工の動物など。土人形も、地域によって土が違うから、面白いんです。

りんごこけしと猫に蛸

相良人形 猫に蛸【山形県米沢市】(右)200年以上の歴史がある土人形で、先の戦中は一時途絶えたものの、戦後復興し、現在は8代目・相良隆馬さがらりゅうまさんが伝統を継ぐ
津軽系 りんごこけし【青森県黒石市・弘前市】(左)津軽系こけしの職人・阿保正文あぼうまさふみさんが作るりんごの帽子をかぶった可愛いいこけし。胴には伝統的にアイヌ文様と牡丹の花が描かれる

 モチーフや素材にも意味があります。たとえば虎をかたどった玩具には強い子に育つようにという思いが込められているから、私はお友達の出産祝いに虎の張子をプレゼントしたりします。宮崎県のうずら車は、イヌタラというとげのある木で作られていて、魔除けの意味を持つんです。郷土玩具に込められた願いや背景を知ると、楽しみの奥行きがぐっと深くなりますよ。

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法華嶽ほっけだけうずら車【宮崎県国富町】日本三薬師のひとつ、法華嶽薬師寺に起源をもつ玩具で、約1200年前からその存在が知られていたそう。クチバシが赤と黒の雌雄で飾られることが多い

 それに、どれも表情に愛嬌があると思いませんか? とくに佐原さわら張子の招き猫は、大のお気に入り。部屋に飾っているのですが、仕事が大変なときも、この猫と目が合うと、なんだか気が楽になるんです。郷土玩具は気持ちが和む可愛らしいものが多くて、現代の暮らしにも寄り添ってくれる存在です。

招き猫

佐原張子 招き猫【千葉県香取市】北総の小江戸といわれる香取市佐原で、1918(大正7)年創業の三浦屋が作る張子。ユルすぎるフォルムが秀逸! ひと目見れば、嫌なことも吹っ飛びます

――この続きは本誌でお読みいただけます。民族学者の神崎宣武さんと郷土玩具が数多く残る九州へ訪れ、鹿児島のおもちゃ神社や福岡の郷土玩具のセレクトショップなどを訪れます。郷土玩具の歴史を知ると共に、愛らしい土人形などの姿に心和むひとときをお過ごしください。

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H05月号特集トビラ画像

【目次】
●あの人が語る 愛しの郷土玩具
甲斐みのりさん/金子信久さん/宮田珠己さん
フィリップ・ワイズベッカーさん/川﨑富美さん
●郷土玩具が生きる町 鹿児島編
●郷土玩具が生きる町 福岡編
●気になる郷土玩具21選

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甲斐みのり(かい みのり)
文筆家。静岡県生まれ。旅や散歩、お菓子に手土産、クラシック建築やホテル、雑貨と暮らしなどを主な題材に執筆。著書に『はじめましての郷土玩具』(グラフィック社)、『東海道新幹線 各駅停車の旅』(ウェッジ)ほか多数。http://www.loule.net/

出典 : ひととき2022年5月号

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