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【太子みそ】地元のおかあさんがつくる“幻の味噌”(兵庫県太子町)

日本全国の“地域の宝”を発掘する連載コーナー「地元にエール これ、いいね!」。地元の人々に長年愛されている食や、伝統的な技術を駆使して作られる美しい工芸品、現地に行かないと体験できないお祭など、心から「これ、いいね!」と思える魅力的なモノやコトを、それぞれの物語と共にご紹介します。(ひととき 2018年4月号より)

 手渡されたお椀からたちのぼる、やさしい味噌の香り。ひと口いただいて驚いた。甘露――。これまで味噌汁に使ったことのない形容が口をついて出る。甘みと塩気が絶妙にあわさった、みごとにまあるい味なのだ。

 聖徳太子にゆかりのある兵庫県太子町で手づくりされている「太子みそ」の原材料は、太子町の米、大豆、赤穂の塩の3つだけ。食品添加物は一切使わず、10カ月かけて熟成される。米糀の割合が多く、糀の甘みと大豆の香りが活きた、昔ながらの味噌である。

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「お椀に残った糀のツブツブも飲み干してくださいね」

 まるで我が子を自慢するかのようにニッコリと微笑むのは、「太子みそ」を製造する太子加工合同会社の代表、長谷川壽子さんだ。

 米どころでもある太子町では、古くから各家庭でさかんに味噌がつくられていた。しかしいつの間にかつくり手が減り〝幻の味噌〟となってしまった。そんな「太子みそ」が復活したのは、平成16年(2004)のこと。全国で市町村合併が進められていた当時、単独町制の道を歩むことを決した太子町では、特産品開発に積極的に乗り出した。町の活性化の願いを託されたのが、地元の恵みを活かした〝幻の味噌〟だった。

 「初年度は1トンの味噌をつくったものの、その販路を開拓するのに奔走しました。最後の最後に藁にもすがる思いで給食センターに飛び込んだんです。町内の小学校の給食に『太子みそ』を使っていただけるようになったのは、ほんとうにありがたかったですね」と長谷川さん。それから14年。現在は町外からも引く手あまたで、年間9トンを製造しても間に合わないほどの人気となった。

 材料も地元産なら、つくり手も地元のおかあさんたち。原材料は3種類とシンプルだが、もう一つ欠かせない材料があった。おかあさんの深くて大きな愛情だ。なるほど〝甘露〟なはずである。

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 橋本裕子=文 佐藤佳穂=写真

ご当地◉Information
●太子町のプロフィール
推古14年(606)、聖徳太子が『法華経』などの経典を天皇に講じた際、これに感動した天皇から賜った播磨国の水田が、現在の太子町にあたると伝わる。平安時代には法隆寺(奈良県)の荘園が置かれ、斑鳩寺〈いかるがでら〉も建立された。現在も町のシンボルであり、地元の太子信仰の中心として親しまれている。「太子みそ」のほか、伝統的な製法で作り続けられている、そうめん「揖保乃糸」や、新鮮な「いちじく」なども人気の特産品。

●太子町へのアクセス
兵庫県の南西部、播州平野が広がる西播磨地域に位置する。姫路駅から山陽本線で網干駅下車、車で約10分。

●問い合わせ先
太子加工合同会社 TEL 080-6121-6191

出典:ひととき2018年4月号
※この記事の内容は雑誌発売時のもので、現在とは異なる場合があります。詳細は、お出かけの際、現地にお確かめください。


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