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【現場取材】世界中で絶賛!エミネント社「カルツォーニ」の美脚パンツ(スラックス)

今日も日本のあちこちで、職人が丹精込めた逸品が生まれている。そこに行けば、日本が誇るモノづくりの技と精神があふれている。これは、そんな世界がうらやむジャパンクオリティーと出会いたくててくてく出かける、こだわりの小旅行。さてさて、今回はどちらの町の、どんな工場に出かけよう!(ひととき2016年3月号 「メイドインニッポン漫遊録」より)

日本有数のパンツ作りの町

 ズボン。スラックス。今ふうに言えばパンツ。ジャケットやシャツに比べて目立たないアイテムでありますが、最近ではチョイワルオヤジブームから火が付いて、穿(は)けばスマートに見える美脚パンツが人気を博している。だが人気のメンズ美脚パンツというと、やはりイタリアのブランド勢が席巻しているのだ。

 そんななかで、唯一気を吐くメイドインジャパンがある。パンツ専業メーカーのエミネント社が作るカルツォーニというオリジナルブランドだ。昨年は、年に2回イタリア・フィレンツェで開催される世界最大級の紳士服展示会ピッティ・ウォモにも出展を果たし、日本の織物技術を駆使した美脚シルエットのパンツが世界中の目の肥えたバイヤーたちに絶賛されたのである。

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イタリアで絶賛されたエミネント社オリジナルブランド「カルツォーニ」の美脚パンツ。税込27,000円(右)と23,760円

 そこで今回、ワレワレが訪ねたのは長崎県の松浦市である。かつては炭鉱の町として栄えていた松浦市は、昭和30年代に相次ぐ閉山から町を守るために企業の工場誘致を推し進めた。それに名乗りをあげたのが、昭和24年(1949)創業、大阪のエミネント社だ。昭和44年にエミネント社の松浦工場が建てられると、松浦市は炭鉱の町から、今では国内生産の約1割を占める、日本有数のパンツ作りの町に生まれ変わったのである。

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 長崎県の北端に位置する松浦市は、伊万里湾の美しいコバルトブルーの海を臨む小高い山と小さな島々に囲まれた、のどかな港町。海沿いを走る松浦鉄道はかわいい単線列車だし、バスも1時間に1本あるかないか。「すごい遠くまで来ちゃったなぁ」というのが正直な感想だが、工場前のバス停の標識にちゃあんと「エミネント前」と書いてある。

 ワレワレを出迎えてくれたのは、社長の前田周二さんだ。さっそく前田さんの案内で工場見学をさせてもらうと、まず驚くのが、なんと社員はほぼ女性なんである。

 「松浦工場は213人いる社員のうち、男性は22人。企業誘致を受けて工場を開いた際、地域に根差した地元雇用を目指して技術指導を行い、女性を中心とした多くの職人を抱えるパンツ工場になったのです」

 ミシンでダァーッと縫う人、アイロンをシャーッと掛ける人、生地をジョキジョキと裁断する人。さすが手際よくて無駄な動きは一切ない。でも有線が嵐の曲だったりするところが、女性の多い職場らしくてチャーミング。

 工場の1階フロアの真ん中には「もの言わぬ ものがもの言う ものづくり」と書かれた、巨大な垂れ幕がどぉんと掲げられている。これは、創業時の第1期生社員で現在は技術長を務める眞弓隆治さんが、社員から公募して選んだエミネント社のスローガンである。

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 まさにそのスローガンのとおり、松浦工場では手間暇をかけて1本のパンツが作られている。普通、パンツは平均90ほどの工程で出来上がるのだが、なんとエミネント社では平均123もの工程を経て作っているのだ。

 天井に設置されているレールに沿って、フックに掛けられたあらゆるパンツのパーツ生地が工場内を次々と流れて移動して行く。日本人の体型を長年に渡り研究して開発された創業当時から使われているエミネント社オリジナルの立体プレス機「尻ぐせプレス」や、大小様々な種類のアイロンやミシン類。それらを駆使して、テキパキと仕事をこなす、パンツを知り尽くした職人たち。工場というよりは、まるで巨大なテーラーのようである。

123の工程を担う女性マイスター

 そして何より松浦工場の一番すごいところは、パンツ作りを知り尽くした職人たちが女性ということだ。彼女たちの繊細で丁寧な仕事が、美しいシルエットと抜群の穿き心地のパンツを生んでいるのだ。

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平成15年(2003)入社の榎並望さん。「美しいシルエットと穿き心地の良さが自慢です」

 年齢も経験もバラバラな職人さんたちには、各ラインごとに仕事をまとめる「マイスター」と呼ばれる地元松浦育ちのベテラン社員がいる。目印は赤いエプロン。現在、赤いエプロンをしたマイスターの数は11人。まさに松浦工場のなでしこジャパンならぬ「エミネントイレブン」だ。

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黒木美代子さん(前列左から2人目)をリーダーにずらりと揃ったパンツ作りのマイスター、エミネントイレブンの皆さん

 そんなエミネントイレブンのリーダーが、松浦工場ができた昭和44年に入社した社員第1期生の黒木美代子さん。彼女に聞けば松浦工場の歴史はもちろん、日本のスラックスの歴史もわかる、メンズパンツを知り尽くしたトップマイスターである。

 「そんなことありません(笑)。でも男性の後ろ姿を見ただけで穿いているパンツのシルエットや穿き心地、素材はわかります。この仕事をやっていて唯一悔しいのは、自分で作ったパンツを穿けないということですね」

 そう語る黒木さんの横で息子のような顔で苦笑いする、カルツォーニの美脚パンツがお似合いの前田さん。何しろ黒木さんが入社した頃はまだ小学生でしたからね。

 ところで松浦市には、かつては炭鉱の町だったからなのか、小さな商店街にスナックが何十軒もある。町に工場ができたばかりの頃は、明け方までスナックで飲んで歌ってそのまま出社する豪快な社員もいたという。

 工場見学後、前田さん行きつけの居酒屋とスナックに連れて行ってもらうと、どこも常連客で大賑わいである。そして威勢がいいのは居酒屋の看板娘やスナックのママさん。風光明媚で魚も美味しい松浦市は、日本が世界に誇れるパンツ工場の町でもありますが、とっても〝女子力〟の高い町でありました。

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あじ彩のやあらしか(長崎弁でかわいい)看板娘
「超元気スタッフ夏美ちゃん」

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松浦の海の幸をふんだんに使ったあじ彩ランチ

 いであつし=文 阿部吉泰=写真

いであつし(コラムニスト)
1961年、静岡県生まれ。コピーライター、「ポパイ」編集部を経て、コラムニストに。共著に『“ナウ”のトリセツ いであつし&綿谷画伯の勝手な流行事典 長い?短い?“イマどき”の賞味期限』(世界文化社)など。
●エミネントスラックス 九州松浦工場
<所在地>長崎県松浦市志佐町浦免1676
<URL>http://www.eminento.co.jp/
●食味酒処 あじ彩
<所在地>松浦市志佐町浦免1311-1
(松浦鉄道西九州線松浦駅から徒歩約3分)
<連絡先>☎ 0956(72)2955
<営業時間>12時~13時30分(LO)、17時30分~21時30分(LO) 
<定休日>不定休
<URL>https://ajisai2955.com/

出典:「ひととき」2016年3月号
※この記事の内容は雑誌発売時のもので、価格など現在とは異なる場合があります。詳細はお出かけの際、現地にお確かめください。


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