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【大院子】ガジュマルの老樹が生い茂る歴史再生空間|『増補版 台北・歴史建築探訪』より(3)

台湾在住作家である片倉佳史氏が、台北市内に残る日本統治時代の建築物を20年ほどかけて取材・撮影してきた渾身作『台北・歴史建築探訪』。このほど発刊される増補版では、コロナ禍でリノベーションしたレストランやカフェなど約40件が追加されています。この連載では、『増補版 台北・歴史建築探訪』より11点をご紹介致します。日本人と台湾人がともに暮らした半世紀を振り返りつつ、また台湾を旅したくなるような場所、建築物をぜひお楽しみください。

増補版 台北・歴史建築探訪
(片倉佳史 著/ウェッジ)

 台北帝国大学の教職員住宅が集まっていた旧しょうちょうは、家屋や樹木の保存運動が盛んなエリアである。地域住民のみならず、この界隈で生まれ育った湾生(台湾からの引揚者)たちも日本で「昭和町会」を組織しており、多くの記録と証言を残している。

 ここは台北帝大が設けたクラブであり、「単身官舎クラブ」とも呼ばれていたようである。ただし、詳細は長らく謎で、戦時期は海軍が所有する士官招待所にもなっていた。そして、終戦直後の時期は引揚を待つ在留邦人子弟のための日僑学校として使用されたこともあった。1952年からは国立台湾大学が管理者となり、教職員宿舎として使用されるようになった。閉ざされた空間であり、内部の様子など、詳細を知ることはできなかった。

緑の中にたたずむ老家屋。時の流れを経て、より力強い美しさを放っている。

 老朽化もあって、台北市はこういった老家屋の撤去を進めたが、2012年11月1日、ここは保存指定を受けた。しかし、翌年2月5日未明に火災に遭って焼失。その後、3年以上という歳月をかけて修復工事が行なわれた。

大手建設会社「力麒建設」を率いる郭淑珍女史の手で修復が進められた。
人々に親しまれる歴史空間。1931(昭和6)年3月8日に上棟式が挙行された。

 現在はカフェとギャラリーになっている。オープンは2019年10月7日のことだった。敷地は広く、散策に訪れる人は少なくない。

敷地内にはカフェ・レストランがあり、食事が楽しめる。
メインとなるギャラリースペースは高い天井が印象的。

文・写真=片倉佳史

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片倉 佳史 (かたくら・よしふみ)
1969年生まれ。早稲田大学教育学部卒業。武蔵野大学客員教授。台湾を学ぶ会(臺灣研究倶楽部)代表。台湾に残る日本統治時代の遺構を探し歩き、記録。講演活動も行なっている。妻である真理氏との共著『台湾探見 ちょっぴりディープに台湾体験』『台湾旅人地図帳』も好評。
●ウェブサイト「台湾特捜百貨店

▼大院子(旧台北帝国大学昭和町クラブ海軍士官招待所)

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