見出し画像

永遠の旅人、松浦武四郎が画鬼・河鍋暁斎に依頼した涅槃図(東京都・静嘉堂文庫美術館で特別展)

特別展「画鬼 河鍋暁斎きょうさい×鬼才 松浦武四郎~『地獄極楽めぐり図』からリアル武四郎涅槃図まで」が静嘉堂せいかどう文庫美術館(東京都千代田区丸の内)で6月9日(日)まで開催されています。松浦武四郎記念館(三重県松坂市)が所蔵する重要文化財「武四郎涅槃図」と、そこで釈迦として描かれた武四郎が身にまとう「大首飾り」の現物(静嘉堂文庫所蔵)をはじめ、武四郎が愛した品々が展示されます。

地下鉄千代田線の二重橋駅を降りてすぐの重要文化財・明治生命館の1階にある静嘉堂文庫美術館は、世田谷区岡本の地より2022年に移転し、開設されました。三菱第二代社長岩﨑彌之助(彌太郎の弟)とその息子・小彌太が収集した美術品約6,500点が所蔵されています。

静嘉堂文庫美術館・展示室内

永遠の旅人、松浦武四郎

幕末から明治にかけて活躍し、北海道の名付け親として知られる松浦武四郎は、三重県松阪市、伊勢街道沿い生まれの探検家で著述家、好古家です。全国から伊勢参りに訪れる人々の姿を見ていた武四郎は旅人への憧れの気持ちが強かったようで、16歳で江戸への旅に出て、19歳で四国八十八か所の霊場をまわり、20歳から九州各地をめぐります。

自慢の大首飾りを身にまとう松浦武四郎 明治15~17年(松浦武四郎記念館蔵)

長崎にいた頃、ロシアの南下に危機感を持った武四郎は、弘化2(1850)年、当時未開の地であった蝦夷に向かいます。自費での3回の旅の記録をまとめた日誌が江戸で評判となり、当時ペリー来航などで開国を迫られて国境について強い意識を持っていた幕府からの要請を受け、今度は公費で蝦夷地調査に向かいます。安政5(1858)年に最後の6回目の調査が終わったのち、武四郎は蝦夷地に関する多くの出版物を発行します。明治2(1869)年には政府より開拓判官に任命され、武四郎がアイヌ語をヒントに考案したアイディアから、蝦夷地の新しい名が「北海道」に決まりました。順風満帆に思えましたが、武四郎は開拓使の北海道開拓のあり方に反発し、辞職してしまいます。

辞職した武四郎は、打ちひしがれるかと思いきや再び全国各地をめぐり、古物を収集します。中でも最も愛着のある品々をまとめた図録『撥雲余興はつうんよきょう』では、住まいが近く、人気絵師であった河鍋暁斎に挿絵を依頼します。武四郎は自ら絵を描くこともありましたが、より技術が必要な作品については、暁斎らプロの絵師に託していました。

鬼面鈴 年代不詳(静嘉堂蔵)
暁斎が『撥雲余興』に描いた「鬼面鈴」、「城州深草堀出車輪石」明治15(1822)年(静嘉堂蔵)

画鬼と呼ばれた絵師、河鍋暁斎

7歳で浮世絵師の歌川国芳に入門し、10歳で狩野派の前村洞和、洞和の師・洞白陳信に師事した河鍋暁斎は、美人画などの浮世絵はもちろん、水墨画など、様々なジャンルの絵画を手掛ける人気絵師でした。そのマルチタレントぶりに憧れ、鹿鳴館を設計したことで知られる建築士、ジョサイア・コンドルが弟子入りしたほどです。武四郎は明治14(1881)年、ともに天神(菅原道真)を信仰する暁斎に武四郎涅槃図の制作を依頼します。

河鍋暁斎(画鬼 暁斎)

暁斎が実際に着手したのは明治16(1883)年。己の道を突き進む当時の天才二人がお互いに刺激を受け合い、時には暁斎が武四郎のことを「いやみ老人」と日記に書き記すこともありながら、明治19(1886)年に作品が仕上がります。

重要文化財 河鍋暁斎《武四郎涅槃図》明治19年(1886)(松浦武四郎記念館蔵)
武四郎が旅先で集めた石が連なる大首飾り(静嘉堂蔵)

美しい石が連なった大首飾りを身にまとった武四郎は中央でお釈迦様のように眠っています。悲しむ妻や可愛がった猫、武四郎が愛した品々が彼を取り囲み、中には菅原道真、岩倉具視とされる人物の姿も見られます。

武四郎が天神様を信仰していたのは、菅原道真が大宰府に左遷されたことを自身の境遇と重ね合わせていたためではないかとも言われています。岩倉具視は、武四郎が開拓判官に就任する際に尽力してくれた人でした。

武四郎涅槃図に描かれた武四郎の愛玩品の数々。右から二番目が蝦夷地を平定した征夷大将軍・坂上田村麻呂で、中央が漂泊の歌人・西行法師

武四郎は暁斎がこの涅槃図を制作している最中にも旅に出ています。何かに突き動かされるように旅をつづけた、生涯の旅人、松浦武四郎。彼が後世に残したかった品々が集結する本展覧会、ぜひお出かけください。静嘉堂文庫美術館が所蔵する国宝・曜変天目もお見逃しなく。

漆黒の茶碗の内側に瑠璃色に輝く斑紋が浮かび上がる曜変天目。世界中で現存する曜変天目の完成品、国宝3点のうちのひとつ(静嘉堂蔵)

写真提供=静嘉堂文庫美術館 
文=西田信子

特別展「画鬼 河鍋暁斎×鬼才 松浦武四郎」
[期間]2024年6月9日(日)まで
[住所]東京都千代田区丸の内2-1-1 明治生命館1F
[開館時間]10:00-17:00(土曜日は〜18:00)*入館は閉館の30分前まで。
[休]月曜日
[入館料]一般1,500円、大学・専門学校・高校生1,000円、中学生以下無料
[アクセス]
地下鉄千代田線二重橋前〈丸の内〉駅 3番出口直結
JR東京駅 丸の内南口より 徒歩5分
JR有楽町駅 国際フォーラム口より 徒歩5分
☎050-5541-8600(ハローダイヤル)
https://www.seikado.or.jp/


よろしければサポートをお願いします。今後のコンテンツ作りに使わせていただきます。