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ほんのりと紅葉色づく京都でいけばな展 (南禅寺天授庵・ウェスティン都ホテル京都)

連載「花の道しるべ from京都」の筆者・笹岡隆甫さんが家元を務める未生流笹岡京都支部のいけばな展が10月9日、南禅なんぜん天授てんじゅあんとウェスティンみやこホテル京都の2会場で行われました。この日、有志の方々による「笹岡隆甫さんを囲む会」も同ホテルで4年ぶりに開かれました。

京都屈指の紅葉の名所である南禅寺は、臨済宗の禅寺。南禅寺天授庵はたっちゅうのひとつで、庭園の美しさで知られています。庭園は特別公開の時にご覧になれますが、方丈(本堂)、大書院などは非公開。今回は特別に公開される貴重な機会とのことでした。

天授庵の通用門を抜けて大書院に入ると、そこは別世界。一面の窓からは、ほんのりと色づいた紅葉にススキなど、広々としたせん回遊かいゆうしきの南庭が見えます。手前には赤い敷物の上にハギなど秋の草花を中心としたいけばな作品がその場を彩っています。

作品を眺めながらわたり廊下を歩いて方丈(本堂)へ向かうと、かれさんすいの東庭が広がります。来場者たちはしげしげと作品を鑑賞したのちに縁側に腰かけ、庭園を眺めながら談笑している人も。

白砂と苔が美しい枯山水の東庭
赤いバラなどをあしらった華やかな作品も

方丈(本堂)には、笹岡隆甫さんが奉納した家元作品がありました。黄金に輝く本堂の前に、左手に力強く枝を伸ばす泰山木たいざんぼく、右手には、ばなに紅葉した夏櫨なつはぜふじばかまとりかぶと、赤と黒の種が印象的なやましゃくやくの実。夏から秋へ。移ろう季節が表現されています。

方丈(本堂)に奉納された家元作品と笹岡さん

庭園で紅葉する木々を眺めつつ、この一日だけのために、最も美しく見えるように枝葉がそぎ落されたいけばなを愛でる。なんて贅沢な時間なのでしょうか。

南禅寺を出たのち、水路閣、ねじりまんぽなどの歴史的建造物を眺めながら、ウェスティン都ホテル京都へ。1890年に創業して以来、国賓ホテルとしての伝統を持つこちらでも、いけばな展が行われていました。

レンガ造りのトンネル・ねじりまんぽ。上には、京都に水を運ぶ琵琶湖疏水が通り、船を運んだ傾斜鉄道・インクラインがありました。
傾斜鉄道・インクライン

芸術の本義とは

4年ぶりに開催された「笹岡隆甫さんを囲む会」では、政治家、財界人、アーティストなど、総勢500人ほどが参加。様々な業種の方がいらっしゃるにもかかわらず、皆さんどこかでつながりがあるようで、まるで同窓会のよう。久しぶりの会合に、嬉々とした様子で歓談されていました。地域の絆の強さを感じましたが、京都への文化庁移転を前に、皆さんがさらに一致団結しているかのようでした。

トークセッションで印象に残ったのは、日本画家の福井こうろうさんが以前、雑誌の対談企画で笹岡さんをイメージして青いバラを描いてもてなしてくれたというお話。最近は自己表現の場としての芸術作品が多いが、かつては神仏のためのものが主だった。「誰かのために」つくるのが芸術なのではないかというお話に、笹岡さんも大きく頷きます。

この日いけばなを出品していた梅野せいさんは、今年門下生になったばかりの庭師さん。作品には時計のモチーフを添えていました。「日本人は、花や香りを通して神仏と向き合う民族性があります。ここ数年は疫病の影響で命について考える機会が多かった。命と向き合うという点では庭づくりはいけばなと同じです。今この瞬間をどう生きていくか、その思いを作品に込めました」と語ります。

3Dプリンタで作った時計のモチーフのある生け花作品。苔で有名な南禅寺天授庵の庭園からヒントを得て、外の世界とつながるよう苔を用いた

「囲む会」でひしひしと感じたのは、ここ数年観光業が厳しく、京都の方々も大変な思いをされていたということでした。それでも、これだけの景観と美意識、人々がお互いを思いやる絆があればきっと大丈夫。冷え込みが厳しいほど色鮮やかに紅葉する木々のように、京都は更なる飛躍を遂げるのではと思いました。

文・写真=西田信子

南禅寺天授庵
京都市左京区南禅寺福地町86-8 
(地下鉄東西線「蹴上駅」下車徒歩約10分)
☎075-771-0744
[拝観時間]9:00~16:45
(11/1~2/末は16:30)
[拝観料] 500円
(拝観休止日 11/11午後~11/12午前)

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