いごっそう(高知県)|諸国名産お国言葉採集
頑固で気骨のある男性の気質を表す土佐の方言「いごっそう」。対して、快活で行動力のある女性は「はちきん」と呼ぶ。ただし豪快な飲みっぷりはジェンダーレスのようだ。土佐の奇祭「どろめ祭り*」の「大杯飲み干し大会」では男性が1升、女性が5合の地酒を10秒ほどで飲み干す猛者もいるというから驚きだ。確かに知人の土佐人が泥酔したところを見たことがない。排気量が大きく耐久性の高い外車のように飛ばすのである。
そんな酒豪たちの心強い支えが高知の司牡丹酒造。銘酒「司牡丹」は言うまでもなく、本格米焼酎「いごっそう」も人気だ。伝統と技術をいささかも損なうことのない造り手の頑固さを名づけに込めたようだ。酒蔵が仕込む米焼酎には名酒が揃う。
この「土佐いごっそう」と並んで青森の「津軽じょっぱり」、熊本の「肥後もっこす」は日本三大頑固といわれる。いずれも酒類の名づけに使用されるという共通点も面白い。
日本酒「じょっぱり」は六花酒造のメインブランド。甘口全盛の時代に淡麗辛口を貫き通した信念が込められていた。残念ながら「じょっぱり」は2年前に製造・販売を止め、全国の左党に衝撃をもたらした。
ちなみに「じょっぱり」の語源は「感情、気持ち」に当たる「情」を押し通す「情張り(じょうばり)」。江戸時代の俳諧や滑稽本の中に登場するが、それが形を変えて方言に残ったようだ。意味が似ているために由来を「強情っ張り」と結びつけたくなるが、「強情っ張り」が文献に登場するのは明治以降なのである。「もっこす」は熊本の球磨地方の老舗・松の泉酒造の米焼酎の銘柄。柔らかな香りと深みのある味わいでファンも多い。
「頑固者」と名づけられた酒類はまだある。新潟の醸造元・越後よいちの純米酒は「いちがいこき」。富山の3つの蔵元で製造される日本酒「いちがいもん」。この「いちがい(一概)」は室町時代に「自分の意志を押し通すこと」の意味で使われていた古語の残存だ。ほかにも、対馬の方言から「こっぽうもん」。南九州の方言を用いた「一刻者」─酒と頑固は離れがたい。
これら大人気の“頑固たち”だが、いずれも造り手のこだわりであって、酒好きに頑固者が揃っているわけではない。
文=篠崎晃一
写真=阿部吉泰
写真提供=司牡丹酒造(店内写真)
出典:ひととき2025年1月号
▼連載バックナンバーを見る