【飯田の水引】思いをつなぎ、心を結ぶ日本独自の文化(長野県飯田市)
ハレの日を華やかに、豪華に彩る水引。飯田は江戸時代から、水引の一大産地として知られる。
気候は温暖で楮や三椏*が豊富にとれ、また天竜川の清流など名水に恵まれていたことから古くより美しく丈夫な和紙がつくられていた。その和紙を使い研究を重ねて生み出された、高品質の真っ白な元結は、江戸のみならず全国を席巻し、さらにさまざまに染め分け水引がつくられるようになった。
そう、水引は紙でできている。紙を縒って長く長く延ばした一本の〝こより〟。それを色とりどりに幾重にも結んで形をつくり、意味を与えるとはいかにも日本らしい。
20メートルほどにもなるこよりが工場内を流れていく。色は顔料だけではなく、細い糸やポリエステルの箔を巻きつけることによってもつけられる。
1902(明治35)年創業の神明堂では、こうして新しい色や風合いの水引を次々に生み出している。なかでも純銀糸が淡く輝くオリジナル商品「プラチナシリーズ」は、品がよく絶妙なニュアンスを表現できると人気が高い。
水引づくりは現在、ほぼ機械化されている。それでも水引細工の結び目はひとつひとつ、今も人間の手でしか結べない。
「水引の飾りは、ひととひと、心と心を結ぶ美しい伝統です」
水引細工の製造・販売を行う創業1877(明治10)年の老舗、田中宗吉商店の田中康弘さんが胸を張る。
水引はのし袋や結納品など、儀礼の場で用いられてきた。その精神性に惹かれ、自らの作品に生かそうとしているのが飯田市で生まれ育った仲田慎吾さんだ。結ぶのではなくあえて線のまま使うことで、水引の新たな表情を引き出す。アクセサリーやオブジェとして身近に置くものに、非日常のきらめきがひそむ。
水引は心を結び、また自身のルーツとも繋がっていく。そしてしなやかな発想で未来を開くのだ。
▼仲田さんが手がけるブランド「RITUAL〈リチュアル〉」の作品(下3点)
文=瀬戸内みなみ 写真=須田卓馬
出典:ひととき2024年1月号
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