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【古都の革靴 KOTOKA】不規則なシボやシワ 靴それぞれの革の個性を楽しむ(奈良県大和郡山市)

日本全国の“地域の宝”を発掘する連載コーナー「地元にエール これ、いいね!」。地元の人々に長年愛されている食や、伝統的な技術を駆使して作られる美しい工芸品、現地に行かないと体験できないお祭など、心から「これ、いいね!」と思える魅力的なモノやコトを、それぞれの物語と共にご紹介します。(ひととき2022年9月号より)

2019年、奈良県大和やまとこおりやま市の7社の靴メーカーが共同で立ち上げたブランド、それがKOTOKAだ。じつは奈良県は日本有数の紳士革靴の産地。大和郡山市では1960年代に革靴産業が発展し、1984(昭和59)年には奈良県靴工場団地(現小泉工業団地)がつくられるほど地場産業として栄えた。

春に限定発売した奈良墨染和牛革のKOTOKA(一部完売)。古い時代のスポーツシューズに着想を得た紳士用の一足

しかし日本の他の製造業と同じく、近年は外国製品との低価格競争に疲弊し、往時の勢いは消えつつあった。半世紀以上の経験に裏打ちされた確かな技術があるのに、産地としての認知度も不十分なままだ。再興をかけて、7社の若手が集まり、議論を重ねた。そのうちのひとり、オリエンタルシューズの松本えいさんがいう。

「やはり奈良らしい革靴を目指そう。それが結論でした」

松本英智さん。「KOTOKAの靴は、あえてシボやシワなどの表情に違いのある革でつくっています。それぞれの個性を楽しんでください」

奈良は日本の国づくりが始まった地でもある。奈良らしいとは日本らしいということと同義であろう。そこで、松本さんたちが導き出した答えは3つ。日本料理のように素材(国産革)のよさを最大限に生かし、シンプルな美しさを引き出すことに長けた日本人の美意識を基に、古社寺にも似た、時を経て深まる味わいを目指すこと。

国産レザーを贅沢に使用したKOTOKA「一枚革ダービー」。姫路丘染めレザーのブラック(左、レディース)、栃木レザーのダークブラウンとキャメル(中・右、メンズ)

そうしてできたKOTOKAの靴を最初に見て感じたのは、威張っていないというのか、まるいというのか、とてもやわらかな印象。履いてみると、その印象通りの、足全体がやさしく包み込まれるうれしさがあった。これこそが、日本のタンナー(製革業者)による選りすぐりの、厚手だけれどしなやかな1枚の革を使い、裏貼りや縫い合わせを最小限にとどめてつくった成果なのだろう。

オリエンタルシューズの工場にて。靴ごとにさまざまな製法があり、写真は靴底とアッパーを通し縫いする工程。より頑強な作りに

現在、KOTOKAではメンズ10型、レディース7型の定番品のほか、限定品を展開。今年4月には奈良墨で染めた革靴が登場し好評だという。販売はウェブサイトからのみ。膝下の奈良と、東京、大阪には試し履きのできる施設が設置されている。

KOTOKAのほかドレスシューズやスニーカーなど、日本人に合う木型で幅広い靴を手掛ける。下は同社オリジナルのローファー。上品な見た目と快適な履き心地が人気

文=黒原康一郎 写真=新山貴一

KOTOKA
試し履きができる展示体験コーナーのあるお店

奈良・奈良蔦屋書店
☎0742-35-0600
東京・FANS.ファンズ新橋店(新橋駅構内)
☎03-6228-5155
大阪・乃屋のや
☎06-7220-6934
HP: KOTOKA

ご当地INFORMATION
大和郡山市のプロフィール
郡山城を中心に発展した城下町。日本の古代史と深く関わる地で、同市稗田ひえだちょう出身とされる「古事記」編纂者の一人・稗田阿礼が賣太めた神社に祀られるほか、邪馬台国があったとの学説もある。江戸時代に金魚養殖が盛んとなり、代表品種「きん」の一大産地に。毎年、全国金魚すくい選手権大会を開催。
問い合わせ先
奈良靴産業協同組合
☎0743-55-1288
http://narakutu.or.jp/
オリエンタルシューズ
☎0743-55-1111
https://www.oriental-shoes.co.jp/

出典:ひととき2022年9月号

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