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「ひととき」の特集紹介

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旅の月刊誌「ひととき」の特集の一部をお読みいただけます。
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#旅のフォトアルバム

【奈良】甦る仏像~新納忠之介の技と心を継ぐ者たち

 よく晴れた青い空に、ラクダのこぶのように、あるいは猫の耳のように、ふたつの頂がくっきり浮かんでいる。奈良と大阪にまたがる二上山だ。ふたつがいかにも仲睦まじそうでほのぼのした気分となりつつ、この山を背にして建つ當麻寺へ向かった。  来る前に聞いてはいたが実際に仁王門を目にし、思わず声をあげてしまう。ふたつ並んで守っているはずの仁王様、金剛力士像のひとつが欠けている。まるで二上山のひとつの頂が姿を消したかのような喪失感。残るもうひとつの仁王様も恐い形相ながら、どこかさみしそう

【東天王 岡﨑神社】おみくじも提灯も卯づくし「狛うさぎ」|京都 動物アートをめぐる旅

「京都は歴史があるだけでなく、同時に新しいものを受け入れる自由な気風がある。そこがこの街の底力だと思います」  伝統と現代を掛け合わせる竹笹堂*のセンスに心酔した様子の金子さんと訪れたのは、平安神宮近くの岡﨑神社。平安遷都に際して王城鎮護のため、都の東(卯の方位)に建立されたことから東天王とも称されている。また、かつてこの地域一帯にノウサギが多くいたため、兎は氏神の使いと伝えられている。その境内には、昭和時代の提げ灯籠などとともに、平成と令和に建立された狛犬ならぬ「狛うさぎ

日本三名山のひとつ、白山の麓で暮らす写真家の木村芳文さんが記録した「白山、手取川のひととせ」

春桜がほころぶ季節、白山の雪解け水は手取川へと注ぎこみます。川が運ぶのは水の恵みにとどまりません。水とともに運びこまれる大量の土砂こそが、扇状地をつくり、豊かな土壌を育みます。一般に扇状地は水に乏しいと考えられていますが、雪解け水で潤う手取川扇状地は豊かな水田地帯。水に浮かぶ小島のように見える集落は「島集落」と呼ばれています。手取川氾濫の被害を減らすため、わずかでも高い土地に家を建てる知恵です 夏清冽な水と飛び交うホタル──手取峡谷の環境の豊かさを象徴する光景です。ニッコウ

【鶴来】石川県最大の河川、手取川扇状地で“水の信仰”白山神社の総本宮へ

 山地での手取川は、勾配がきつく川幅も狭い。いきおい流れは速く、鋭い峡谷を創り出す。だが、山間を抜けて平地に出ると砂礫を運ぶ力を失い、ふいに手放してしまう。大荷物を背から下ろし、人が変わったように穏やかな表情になる。  下ろされた大量の砂礫が積もり、長い歳月を経て放射状に広がった地形が扇状地、すなわち扇をめでたく全開にした形の平野だ。その扇の要につくられた市街地が白山麓の玄関口、鶴来地区である。  なにはともあれこの地を訪れた報告として、白山を神体山とする加賀国一ノ宮、白

実はパン屋激戦区 京都パンの世界【たま木亭】

幸せな1日を迎えるために、おいしいパンを用意しておくことがよくあります。起きるのが少し億劫な朝も、温めたおいしいパンを口に運べば、たいてい幸せな気分になって、その日をはじめられるからです。 そんな生活が習慣になっているのは、いつも近所においしいパン屋さんがあるおかげ。なぜだか私は、引っ越す先々でおいしいパン屋さんに巡り合えてしまうという幸運な星の下に生まれているのです。 けれどたまには足を延ばして、遠くのパン屋さんを訪ねてみることにしました。 向かったのは京都・神戸。実

モダニズムの建築家・松村正恒流「学校らしくない学校」へ(愛媛県・八幡浜)

旧川之内小学校 通っていた小学校の校舎を、覚えていますか?  私たちがこれまで過ごしてきた多くの建物のなかで、とりわけ懐かしく感じたり、その細部まで鮮明に思い出したりすることができるのは、小学校ではないでしょうか。あの頃の記憶の蓋をひとたび開けば、好きだった子の笑顔やしでかした悪戯、先生のしかめっ面などが次々と飛び出してくるようです。いい思い出も、ほろ苦い思い出も――。 東京からUターンした「年中無休建築士」思い出に残る学校を創りたい、半端者の戯れごとです、人の心にしみる

【鎌倉紀行】ほほえみの美仏に会いに行く(案内人・山本勉さん、旅人・みほとけさん)

地域のシンボル 白衣観音像 大船観音寺 新緑の芽吹きが朝露を弾き、きらきらと光が反射する。むせかえるような土と緑の匂いを胸いっぱいに吸い込みながら、急坂の参道を一歩一歩踏みしめる。空を仰げば、ひょっこり現れる真っ白な観音様。 「あら、いらっしゃい」  そう言わんばかりの大きな観音像が、気さくなほほえみを湛えながら参道を上る人々を見守っている。 「大船観音はもう、モノマネ済みです」  白い衣を被ると綺麗に盛れるんですよね、と笑いながら話すのは仏像大好き芸人のみほとけさん

京都――タイルと建築100年の物語【銭湯をリノベーションしたカフェ・さらさ西陣】

レトロなビルのファサードや銭湯の浴場を飾る「タイル」。どこかノスタルジックな趣のあるこの言葉が使われはじめたのは、ちょうど100年前のことでした。近代建築の宝庫である京都で、建築史家の倉方俊輔さんと美術家の中村裕太さんが街歩き。この日初めて会ったお二人は、早速意気投合してタイルについて想像を巡らし、まるで探偵のよう…。和製マジョリカタイル貼りの銭湯をリノベーションした「さらさ西陣」に向かいます。(ひととき2022年4月号特集「京都――タイルと建築、100年の物語」より) 「

花の蕾が綻び始めるこの時季に知りたい 植物園の魅力

四季の変化に富む日本列島は、実は世界の中でも植物の種類が多い、植物大国であることをご存じでしょうか?古来、日本人はその美しさを和歌に詠み、生活に取り入れ、花木に親しんできました。花の蕾が綻び始める時季に合わせて、植物学者の塚谷裕一さんに植物観賞の魅力とツボをうかがいます。まずは植物園の楽しみ方を教えてもらいましょう――。(ひととき2022年3月号特集「植物の不思議な魅力」より一部を抜粋してお届けします) 植物学者の塚谷裕一さんが語る植物園の魅力 日本植物園協会という公益社団