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地元にエール これ、いいね!

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日本全国の“地域の宝”を発掘する連載コーナー「地元にエール これ、いいね!」。地元の人々に長年愛されている食や、伝統的な技術を駆使して作られる美しい工芸品、現地に行かないと体験で…
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#これいいね

【若狭のお箸】若狭の美しさを表現した現代の箸づくり(福井県小浜市)

「御食国」として都に豊かな食材を運んできた福井県小浜市は現在、箸の一大生産地として栄える町。全国に流通する塗箸の8割がここで生まれているという。その背景に、400年以上の歴史をもつ伝統工芸品・若狭塗があることは間違いない。かつて漁師が副業として若狭塗の箸づくりをしていたことが、箸産業のルーツのひとつだ。 「若狭塗の模様は、卵殻と貝殻、松葉や菜種などの自然素材で描いていきます。色漆を塗り、金箔を置き、さらに漆を塗り重ねます。その後、研ぎ出しによってきらめく模様を出すのが若狭塗

【伊勢根付】神宮の加護を願った土産物(三重県伊勢市)

 無事にカエレますように──。  江戸時代、お伊勢参りの土産として人気だった根付。年間に何十万人もの庶民が全国から伊勢神宮を目指して旅をするようになったその頃でも、道中は険しく、追い剥ぎなど危険もあった。だから職人たちは旅の安全を祈って根付にカエルを彫ったのだという。七福神や十二支などの縁起ものも。  根付とは、煙草入れなどの小物と紐で結び、帯に挟んで携帯するための留め具。この目立たない実用品に、限りない楽しみが広がる。  身につけるものだから小さく、そして帯や手を傷つ

【飯田の水引】思いをつなぎ、心を結ぶ日本独自の文化(長野県飯田市)

 ハレの日を華やかに、豪華に彩る水引。飯田は江戸時代から、水引の一大産地として知られる。  気候は温暖で楮や三椏*が豊富にとれ、また天竜川の清流など名水に恵まれていたことから古くより美しく丈夫な和紙がつくられていた。その和紙を使い研究を重ねて生み出された、高品質の真っ白な元結は、江戸のみならず全国を席巻し、さらにさまざまに染め分け水引がつくられるようになった。  そう、水引は紙でできている。紙を縒って長く長く延ばした一本の〝こより〟。それを色とりどりに幾重にも結んで形をつ

【竹田の姫だるま】しあわせの微笑みを未来につなぐ縁起物(大分県竹田市)

 たおやかに微笑む「竹田の姫だるま」。竹田市で約400年前に生まれた女性のだるまは、家庭円満・商売繁盛の縁起物として親しまれ、旧岡藩時代には下級武士の内職として作られていたが、戦時中に途絶えた。このだるまを戦後に復興したのが、ごとう姫だるま工房。2代目の後藤明子さんは「初代・後藤恒人が、皿に描かれた姫だるまを見て、『この地の文化を復活させたい』とわずかに残るだるまや資料を頼りに作り始めたのが、今の姫だるまです」と話す。19歳で後藤家に嫁ぎ、義父である初代から製法を習って半世紀

【高松盆栽】松盆栽の生産量が日本一!産地から国内外にその魅力を発信(香川県高松市)

 高松盆栽の歴史は遡ること200年余り。野山に自生していた松を鉢に植え替え、金刀比羅宮の参拝客を相手に、土産物として販売したのが始まりだという。「雨が少なく温暖な瀬戸内の気候と、水はけがいい花崗岩の土壌が、松の栽培に適していたんです」。香川県盆栽生産振興協議会の会長を務める尾路悟さんが教えてくれた。  高松盆栽は、盆栽の代表格・黒松を筆頭に、主に松を扱う。高松市の鬼無町と国分寺町が生産地の中心で、最盛期の農家は300軒を超えていた。現在は60軒ほどに減少したものの、国内で生

【出雲の鍛冶しごと】「たたら」の伝統を今に伝える(島根県安来市)

 粘土で築いた炉に、砂鉄と木炭を交互にくべ、鞴で風を送り、高温で燃焼させる。炉の中で砂鉄は分解・還元され、鉄が生まれる。日本古来の「たたら製鉄」だ。  良質な砂鉄に恵まれた出雲地方では、1000年以上前から鉄づくりが行われてきた。その長い歴史は、たたら関連の貴重な資料や器具を展示する安来市の「和鋼博物館」で体感することができる。  産業としてのたたら製鉄は近代製鉄法に取って換わられ、100年ほど前に姿を消したが、今でも出雲伝統の鉄加工を継承する職人たちがいる。今回紹介する

【高岡の風鈴】鋳物師が作り出す音の美(富山県高岡市)

そよ風に乗って聞えてくる風鈴の音は、夏の音色だ。澄んだ音とともにひとしきり涼しさを運んでくれる。 風鈴はガラス製品をはじめ全国各地にあるが、富山県高岡市で作られるのは伝統的な鋳造法による鋳物の風鈴だ。高岡は、加賀藩主だった前田利長が隠居後に造った城下町。利長は鋳物造りを誘致、手厚く保護した。400余年を経て、現代では銅の合金を用いた鋳物による仏具生産量が日本一を誇る鋳物の町となった。 製品の開発から販売までを行うメーカーの能作は、4代目の前社長・能作克治さんが手がけた真鍮

【津軽びいどろ】華やかに美しく青森の風景を映し出すハンドメイドガラス(青森県青森市)

 ガラスに浮かぶ、とりどりの色彩が目を楽しませる「津軽びいどろ」。工場を案内してくれた北洋硝子の社長・壁屋知則さんは「伝統工芸品の津軽びいどろは、職人の高い技術力と長年の研究で培われてきたオリジナルの色の豊富さが特徴です。青森の地域性を色に落とし込み、デザインを掛け合わせてプロダクトを生み出しています」と話す。  北洋硝子は1949(昭和24)年、陸奥湾でのホタテ養殖をはじめとする漁業に欠かせないガラスの浮き玉を作る会社として創業した。  浮き玉は、「宙吹き」という技法で

【宇部の野外彫刻】風景となって街の記憶に刻まれてゆくアート(山口県宇部市)

 快晴の空の色そのままの青い湖を抱く、広大なときわ公園。その一角、UBEビエンナーレ彫刻の丘に、ひときわ目を引く彫刻「はじまりのはじまり」があった。3メートルを超す巨大な卵の、鈍く光る金属の殻の隙間から植物が顔を覗かせている。「毎日定刻に卵の頭から水が噴き出します。夏には植物が伸びて緑も濃くなり、全く違う印象になりますよ」と宇部市文化振興課の山本結菜さんが説明してくれた。  湖の青を透かして立つアクリルのプレートは、昨年開催された第29回UBEビエンナーレ(現代日本彫刻展)

【有松鳴海絞り】400年の伝統を持つ手仕事から生まれるモダンデザイン(愛知県名古屋市緑区)

 繊細な凹凸のあるシェードから広がる柔らかな光。モダンで印象的なこの照明は、江戸時代から続く絞り染めの伝統技法と、熱で形状を定着させるヒートセットという現代の技術が出会って生まれた。「シェード生地の豊かな表情と陰影は、熟練した有松鳴海絞りの技でしか表現できないものです」と、デュッセルドルフと有松を拠点に絞りの魅力を発信するsuzusanクリエイティブディレクターの村瀬弘行さん。  慶長13年(1608)、木綿を絞り染めにした手拭いを東海道の土産物として売り出したのが有松鳴海

【猫ちぐら】雪深い村で編まれる暖かな猫の家(新潟県岩船郡関川村)

 田んぼも畑も、冬になると深い雪にすっぽり覆われてしまう。昔、農作業のできないその時期に、村のひとびとは稲藁を編んだ。雨をよける蓑、雪道を歩く深ぐつ、炭を入れるかますなど、日々の暮らしに必要なものをこつこつと。猫ちぐらもそうした冬仕事のなかでいつしか生まれたものである。  猫ちぐらとはいわば「猫小屋」。猫は自分の体が隠れるような狭いところが大好きで、そこにいればとてもリラックスするらしい。  今ではもう藁を編む家もないけれど、猫ちぐらの製法は「関川村猫ちぐらの会」が受け継

【古都の革靴 KOTOKA】不規則なシボやシワ 靴それぞれの革の個性を楽しむ(奈良県大和郡山市)

2019年、奈良県大和郡山市の7社の靴メーカーが共同で立ち上げたブランド、それがKOTOKAだ。じつは奈良県は日本有数の紳士革靴の産地。大和郡山市では1960年代に革靴産業が発展し、1984(昭和59)年には奈良県靴工場団地(現小泉工業団地)がつくられるほど地場産業として栄えた。 しかし日本の他の製造業と同じく、近年は外国製品との低価格競争に疲弊し、往時の勢いは消えつつあった。半世紀以上の経験に裏打ちされた確かな技術があるのに、産地としての認知度も不十分なままだ。再興をかけ