数か月前より、東京各地で犯行に及び話題をさらっている、通称・怪盗アビシニアンについて、独自取材による続報が入った。それも、第一報を発した女性ライターからの再投稿。なんでも、今まで報道機関があてにしてきた怪盗の特徴が間違っていた可能性があるというのだ。
周音は原稿から顔を挙げ、慶介に勝利の色の瞳を向ける。疲労感は完全には去っていないが、安堵が前面に張り出していた。まず、ここまで来られた。周音はこの不可思議な怪盗の罠を見破り、第二の宣戦布告をしおおせたのだ。瞳の奥は休まることなく、次なる対決に向けて炎を燃やしている。
「ねえ、私、やったよ」
周音は慶介の同意を得ようと声を掛け、笑顔を見せる。
それをわかっていてか、洗い物の手を止めない慶介は手許のご飯茶碗をうつむいたまま…