見出し画像

168 原作と映像化作品

「三体」は何体?

 Netflix版の「三体」は、私がWOWOWで見た中国版「三体」とはまったく違う。予告編を見て驚いたけど。メタバースのゲーム「三体」へ入るときのゴーグルへのカネのかけ方が天と地ぐらいの差があって、おカネかけている感が多いのと、中国人以外のキャストが多い(多すぎる?)印象。
 WOWOW版の話は、「82 フィクションと虚構」などに記している。
 たとえば、「DUNE/デューン 砂の惑星」は、映画版、ドラマ版と何度か作成されていて、先日映画版「デューン 砂の惑星 PART2」が公開されたばかりだ。
 さらに遡って、「猿の惑星」というシリーズがあり、これは、Wikiによれば、オリジナル版の映画が1968年から70年代に5作品、リメイク版が2001年に。2011年からリブート版が4作、さらにテレビドラマ版がある。
 もしかすると「三体」も、今後、何度も何度も擦り倒される作品になっていくのかもしれない。
 こういう世界になってしまうと、「原作者の意向」など完全に契約書によって何億光年の彼方へ吹っ飛ばされてしまうのだろう。
 だいたい「猿の惑星」の原作本はピエール・ブール著の1作のみ。この著者の出世作は「戦場にかける橋」でこれも映画の方が有名。これは著者の実体験に基づいて旧日本帝国の軍隊と捕虜の物語であるところから、「猿の惑星」は、日本人を猿に見たてて笑い飛ばす(あるいはゾッとさせる)作品だと解釈することも可能だ。映画の衝撃的なラストは、小説の衝撃的なラストとはまるで違う。小説は私の記憶ではそれほど長い話ではなく、オチも短編によくあるようなまとめ方だった。
 しかし、こうして何度もリメイクは派生作品が登場する原作には、それだけの魅力がある。それだけは間違いない。その魅力とはなんだろう。

書いてないこと、わからないこと

 私は「三体」の原作を読んでいないのではっきりしたことは言えないけれど、ドラマ製作者や映画製作者を魅了するストーリーとは、恐らく、なにかがはっきりと書かれていないのではないだろうか。書いていないこと、わからないことこそが、人々の好奇心を刺激する。
「おもしろかったのだが、どうも、ここがよくわからない」「すごく楽しめたのに、複雑すぎてちょっとモヤモヤするところがある」といった作品こそ、シリーズ化やリメイクの意欲につながっていく気がする。
 もちろん、その前に原作なり最初の映像作品なりがヒットしなければそもそも話にならないけれども。
 小説は「すべてを書いてある」タイプもないわけではないが、たいがいは、視点を絞り込んでいかないと描けないために、ごっそりと抜け落ちている視点がある。単純に言えば、ホームズのようなミステリでも、犯人の側からドラマを構築すれば、新しい発見があるだろう。
 脚本化するときは、登場人物の関係性などを原作から抽出して紐解いていくことになるし、ストーリーは時系列で全貌を明確にしていかないとならないが、そのときに恐らく、「ここがわからない」となる部分が出てくるはずだ。それは著者があえて書かなかったことなのか、あるいは忘れていたのか、あるいは(そんなことはまずないけれど)間違えていたのか。
 しかも映像化するときには、端役まで実際の人間に割り振っていくことになり、登場人物それぞれの役を貰った役者たちは、「どうして?」と思う場面に出くわすに違いなく、そうした疑問の数々によって、原作とは違った世界を描き出すことも可能になる。
 さらに、映像化するときはさまざまな制約によって、原作の一部しか映像化できないこともある。すべてを説明的に描くのは映像作品の質を低下してしまうから、バッサリと削ることもあるだろう。
 だから、その後に「完全版」と称して再び映像化できたりもする。
 ちょっと前に、原作漫画とドラマ化の問題が急浮上した。それは原作者が自殺してしまったことで事態の重さを社会も受け止めた結果だろう。
 原作者が存命で、なおかつ原作がまだ完結していないときは、今後はさらに慎重で繊細な対応を求めることになるかもしれない。一方、原作者はすでに亡くなっている場合、あるいは映像化権が一人歩きしている作品の場合は、大胆な解釈も許されるのだろうか。いま「だろうか」と書いたけど、ここは「許される」で「。」でもよかったけれど、断定できない気がしたのである。
 たとえば、有名なラーメン店が閉店したとして、関係者が亡くなったあとに「復刻」と称してかつての名前で売り出すことは可能だろうか? どれだけ努力をしても、まったく同じものを出せるはずもないのだが、名前を使っていいのだろうか? 銀座に店がなくても「銀座」と商品名につけ、築地に店がなくても「築地」と店名につけるのと同じだろうか?
 法的な問題では決着が付けられることだろうけど、私はあえて心情的な問題としていまこれを書いている。
 

 

 
 

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?