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4 虚偽もまた現実だ

『何曜日に生まれたの』

 ドラマ『何曜日に生まれたの』は野島伸司脚本。90年代に大活躍した脚本家だということは知っているが、私自身、ちゃんとドラマを楽しむようになったのが朝ドラ『あまちゃん』(2013年)なので、いわゆるトレンディードラマであるとか、人気ドラマの大半をちゃんと見ていない。見なくてもいろいろな情報でなんとなく見た気になっている。
 で、久しぶりにちゃんと見ているドラマのひとつが『何曜日に生まれたの』だ。なにげなく見始めて7話まで見た。意外性や捻った展開がスピーディーに繰り出される上に、セリフがおもしろく、その状況になにを言うのかが興味深い。そもそも人に会うとき、話題に困ったら「何曜日生まれですか」と聞く、というタイトルの前提に戸惑う。普通ではいられない。
 このドラマは、ドラマの上で売れっ子作家による原作によって引きこもり(こもりびと)の女性を主人公としたマンガを、その女性の父親が描くという仕掛けがそもそもとんでもないわけで、そのため女性のスマホに盗聴器を仕掛けて、作家や編集者や父親が盗聴しているのである。
 ラブコメとして、こうしたトンデモな設定はよくあることで、なにがなんでも登場人物たちの間に発生する恋愛感情を中心に見ていくのであれば、ほかはなにをやってもいい、雑魚キャラに至ってはどれだけふざけてもかまわない、といった前提があるとしても、なかなかに厄介なドラマとなっている。
 それでいて、主軸となるのは「本当」と「偽装」である。なにが本当で、なにが偽装なのか。毎回、そこが問題になっていく。7話では本当の離婚事情は作品にしてしまうと相手が知ってしまうから、このままでは表現できないよね、といった話がドラマの中で登場する。
 いや、そもそも、本当なのか、偽装なのか、その区別は、日常ではあまりないよね、と感じた。この場合、作品としてアウトプットするから問題になるかもしれないが、日常ではアウトプットはないので、ほとんど問題にならない。

『日曜の夜ぐらいは…』

 その前に、気に入っていたドラマは『日曜の夜ぐらいは…』だった。岡田惠和脚本。『あまちゃん』のあと『ひよっこ』も見たので信頼できる脚本だと思った。この作品でも、現実と偽装の錯綜が展開されていく。なにしろ、主人公たちは、なにげなくラジオ番組のバス旅行に参加し、なにげなく宝くじを購入し、なにげなくそれが当選し、その資金の使い方によってそれぞれの人生を大きく変えていく。
 現実としてまあ、ないよな、と思うことの連続の中で、孤独についての深い考察もあるドラマだった。初回があまりにも暗かったからか、二回目以降は無闇に明るくなったのが残念だったけど。
 もちろん、『何曜日に生まれたの』と『日曜の夜ぐらいは…』はなんの関係もないドラマである、と言い切りたいが、企画(プロデューサー)が同じ清水一幸であった。
 いずれにせよ、この二作品に限らないのだが、作品になった段階で、たとえ実在の人物を題材とした作品であっても、それは虚偽(フィクション)である。歴史を題材にした大河ドラマであっても、虚偽(フィクション)からは逃れられない。

虚偽(フィクション)の必要性

 私の知り合いで「小説はウソだから読まない」「ドラマはウソだから見ない」と言う人がいて、そういう人とは長く付き合えないので実際、すでになんの繋がりもないのであるが、その言葉はずっと心に残っている。
 なぜなら、「だったら本当ことはどこにあるのか」とか「あなただってウソついているでしょ」みたいな反論は大人げないので、しなかったものの、私はいつも仮想敵みたいな感じで心に残っているそいつに向かって、そう問い続けている。「本当とはなに?」「一度もウソをつかずに生きてきたとどうして言えるの?」と。
 虚偽は現実である。それが私の前提になっている。
 たとえば、事業の目論見書などを見ると、論理的には合っているように見えるのだが、最終的には目に見えぬユーザーが事業者の希望通りに現れてくれて事業者の希望通りの利益をもたらしてくれる、という虚偽によって成り立っている。突き詰めれば「頑張ります!」で終わってしまうことだってあり得て、世の中には「頑張ります!」という虚偽が日々、あちこちで増殖している。
 人はそれを希望と呼び、あるいは未来と呼び、あるいは企画書と呼ぶ。
 それは「こうなったらいいな」という虚偽である。
 未知と虚偽は違うかもしれないが、未知を前提に現実を変えようとすれば、それは虚偽の力で推進しようと言うわけだから、やはり虚偽だろう。こう書いてみて、だいぶ、自分でも自信はなくなってきたが。
 そういう点で、「虚偽は現実」とした方が、実は私たちはもっと楽しく自由な生き方ができるのではないか、と勝手に思っている。現実を拡張するものは、虚偽なのだ、と。

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